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EUV露光に残された課題――ペリクルの現在地と展望とは湯之上隆のナノフォーカス(86)(1/5 ページ)

2025年11月に都内で開催されたimecのフォーラム「ITF Japan 2025」から、三井化学による極端紫外線(EUV)露光用ペリクル(保護膜)の講演を解説する。最先端の半導体製造に不可欠なEUV露光だが、実は、ペリクルに関しては依然として多くの課題がある。三井化学はそれをどう解決しようとしているのか。

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imecのCEOが交代


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 ベルギーの研究機関であるimecが主催したフォーラム「ITF Japan 2025」が11月10日、グランドハイアット東京で開催された。午前11時からの記者会見では、現CEOのLuc Van den hove氏が2026年4月1日付で会長に就任し、後任のCEOとしてPatrick Vandenameele氏が指名されたことが発表された(図1

 Van den hove氏は、創設期からimecを支え、2009年のCEO就任以降、“世界の先端半導体ロードマップはimecが方向を決める”と言われる現在の地位を築いた最大の功労者である。2025年4月以降は会長として、imecの政治・外交・技術戦略を統括する立場となり、同機関の将来ビジョンと国際的プレゼンスを支える役割を担うことになる。

これに対し、新CEOに就任するVandenameele氏は、imecのExecutive Vice President(EVP)としてR&D全体を長年統括してきた人物である。今後は「実行力のある技術畑のCEO」としてVan den hove氏のビジョンを継承し、先端プロセス研究の実務と国際協力体制をより確固たるものにすることが期待されている。

図1:現CEOのLuc Van den hove氏と次期CEOのPatrick Vandenameele氏
図1:現CEOのLuc Van den hove氏と次期CEOのPatrick Vandenameele氏 出所:imec

EUVペリクル(保護膜)の発表に注目

 記者会見終了後、12時30分からフォーラム本編に移り、10件の講演と2件の対談が行われた。筆者は、この中でも、三井化学 代表取締役 専務執行役員・ICTソリューション事業本部長の平原昭夫氏による「化学とコラボレーション:明日の半導体エコシステムを推進する」に注目した。

 というのも、平原氏が、最先端の露光技術である極端紫外線(EUV)露光における、大きな課題の一つである「ペリクル(Pellicle)」について言及したからである。ペリクルの役割などの詳細は後述するが、簡単に言えば、レチクルを保護するための薄膜である。

 図2に示す通り、EUV露光装置は、この10年間でASMLが300台以上を出荷してきた。ところが、EUVペリクルには依然として多くの技術的問題があり、量産適用に十分な仕様を満たすものはまだ確立されていない。このため、ペリクルを搭載せずにEUV露光を実施している半導体メーカーも少なくないと推察される。


図2:半導体メーカー各社の累積EUV保有台数と世界全体の合計[クリックで拡大] 出所:Bank of Amerca Global Researchの推定値(2021〜2025年)と筆者の推測値(2016〜2020年)

 そこで本稿では、まずEUVペリクルが果たす役割と、現在解決すべき課題を明らかにする。次に、三井化学が開発を進めているカーボンナノチューブ(CNT)製ペリクルが、有力候補として注目されている現状を説明する。さらに、EUVペリクルの将来的展望について論じる。

 結論を先に述べれば、CNT製ペリクルは、波長13.5nmのEUV光の透過率と耐久性(寿命)がトレードオフの関係にあり、その最適解を見いだすことが極めて難しい状況となっている。従って、EUVを用いる先端半導体メーカーは、CNT製ペリクルの採用を巡って、今後も非常に難しい判断を迫られると推測される。

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