編集者が選ぶ「2025年半導体業界の漢字」――「偏」:2025年 年末企画
間もなく終わりを迎える2025年。そこで、EE Times Japan編集部のメンバーが、半導体業界の“世相”を表す「ことしの漢字」を考えてみました。
AI/データセンターに偏る投資 サプライチェーンの偏りも課題に
筆者が選んだ漢字は「偏」です。
2025年の半導体業界は、盛り上がる分野の「偏り」が非常に大きかった印象があります。誰が見ても、ことしのトレンドはとにかくAIです。AIはここ数年にわたってずっと話題の中心でしたが、それがさらに加速したように思います。最先端半導体やデータセンター向け、エッジAIなどは市場も盛り上がっていて、設備投資も活発です。世界半導体市場統計(WSTS)の発表によると、2025年の世界半導体市場は、メモリやロジックがけん引し、前年比22.5%の高成長の見込みだといいます。
分野別に見ると、メモリは前年比27.8%増、ロジックは同37.1%とすごい成長率です。一方で、アナログの成長率は7.5%、センサー&アクチュエーターは10.4%と、マイナス成長ではないものの、メモリ/ロジックとは大きな差があります。
AIの盛り上がりは喜ばしいことである一方で、今は実態以上に過熱した「バブル」状態だという見方もあります。また、今AIに投資が集中しすぎて他の分野が相対的に手薄になると、数年後にその影響が表面化するのではないかという懸念も感じます。
加えて、サプライチェーンの「偏り」への危機感がこれまで以上に高まった年でもあったと思います。コロナ禍の経験もあり、以前からサプライチェーンの強靭化や多様化は業界の課題として認識されてきましたが、ことしはドナルド・トランプ米大統領の関税政策や対中規制の影響で、中国企業の製品を多く使用していた企業が調達先変更などの対応をとる場面も少なくなかったと聞きます。特定の国や地域、企業の製品に依存することのリスクが改めて浮き彫りになった1年だったのではないでしょうか。
需要が特定分野に集中することも、国家間の対立による影響も、ある程度は避けられない側面があります。しかし、そうした「偏り」によって半導体業界全体の技術進歩が損なわれることがないよう、今後の動向を見守りたいところです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
半導体の性能向上は「AI演算の需要」を満たせるのか
瞬く間に新たなバズワードとなった「生成AI」。求められる演算量や演算速度が右肩上がりで増加する中、半導体はそのニーズに応えられるのか。
自由市場から国家主導へ 米国政府の「アメとムチ」で変貌する半導体業界
米国経済は歴史的に重要な転換点を迎えている。世界を代表するテクノロジー企業が米国への巨額の投資を約束しているが、これは自由市場原理の勝利ではない。経済的/規制的な強制力に基づく産業政策の結果だ。つまり、米国政府は安全保障というレトリックを用いて企業の意思決定に影響を及ぼしたといえる。
2026年半導体市場、成長は視野に入るが不確実性も残る ―― WSTS秋季予測をどう読むか
WSTSが2025年、2026年の半導体市場予測を更新し、2025年は前年比22.5%増、2026年は同26.3%増とした。AI投資が市場を押し上げる一方、PC/スマホなど主要アプリケーションの回復が遅れれば下振れの可能性もある。分野別の実績と背景要因から、予測の妥当性と今後のリスクを考察する。
2030年の半導体メモリ市場は平均10%成長で3020億米ドルへ
2025年8月に開催された「FMS(the Future of Memory and Storage)」の一般講演を紹介する。今回は、Yole Groupのシニアアナリストがメモリ市場の概況を解説する講演を取り上げる。
Intel、SambaNova買収へ交渉中か AI推論分野での追い上げ目指す
Intelは現在、AIロードマップの再構築を進める中で、カリフォルニア州パロアルトに拠点を置くAIプロセッサスタートアップのSambaNovaに対して買収交渉を行っているという。カスタムAIチップメーカーであるSambaNovaは、資金調達ラウンドを完了するのに苦戦したことから、売却先の可能性を模索していた。
