YbNとの合金化でAlN薄膜の熱伝導率をガラス並みに:従来の常識に反する振る舞いを観測
早稲田大学の研究グループは、AlN薄膜をYbNと合金化することによって、AlNの結晶構造を保持したまま、熱伝導率をガラスに近い値まで低減できることを見出した。電子デバイスや化学反応炉における断熱材料などへの応用に期待する。
AlNの結晶構造を保持したまま、熱伝導率を大幅に低減
早稲田大学理工学術院のJunjun Jia教授と柳谷隆彦教授らによる研究グループは2026年2月、アルミニウム窒化物(AlN)薄膜をイッテルビウム窒化物(YbN)と合金化することで、AlNの結晶構造を保持したまま、熱伝導率をガラスに近い値まで低減できることを見出したと発表した。電子デバイスや化学反応炉における断熱材料などへの応用に期待する。
熱伝導率が低いガラス材料は、断熱材料として知られている。ただ、長期間の使用や高温環境だと構造が変化し安定性に欠ける。これに対し、結晶材料は構造的に安定しているものの、ガラス並みに熱を通しにくくするのは難しかったという。そこで研究グループは、構造的にも安定し極めて低い熱伝導性を示す材料の開発に取り組んだ。
今回開発したのは、AlNにYbNを合金化した(Yb,Al)N薄膜だ。実験によって、(Yb,Al)NではYb濃度が増えるほど熱を運ぶ振動の速さが高まることを確認した。これは、従来の常識に反する振る舞いだという。この結果、5THz以下の低周波数領域において熱拡散率がほぼ一定に保たれ、より複雑な格子再構成が存在することが分かった。
また、YbNとの合金化によって、AlN結晶の熱伝導率は0.98W/(m・K)以下となった。単結晶AlNの320W/(m・K)と比べ大幅に低減したことになる。実用化されている(Sc,Al)N合金でも熱伝導率は3.03W/(m・K)である。大きな差が出る要因は、YbとAlのイオン半径および、イオン質量の不整合が断熱性能を最大化しているためだとみている。
研究グループによれば、(Yb,Al)N薄膜の実用化に向けてはいくつかの課題もあるという。例えば、「Ybを含む材料系におけるコストや資源の節約」「既存プロセスとの整合性」などで、これらについては引き続き検討を進めていく必要があるという。
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