イラン戦争の長期化が半導体業界に及ぼす深刻な影響:ヘリウムと臭素に供給リスク(2/2 ページ)
現在中東地域で続いている戦争が、半導体製造に不可欠なヘリウムや臭素(Br)などの重要な材料の供給を妨げる可能性がある。そしてそれが、現在コンピューティングチップやメモリに対する未曾有の需要をけん引しているAIブームに、深刻な影響を及ぼす恐れがあるのだ。本稿ではその概要を述べる。
シリコンウエハー冷却用のヘリウム、現実的な代替はなし
ヘリウムは、半導体製造においてシリコンウエハーの冷却に使われ、現実的な代替材料は存在しないと考えられている。製造装置の温度を安定した状態に維持することに加え、漏れ検知にも広く使われる。また、フォトリソグラフィのプロセスでも重要な役割を担う。
SamsungとSK hynixの本拠地である韓国は、ヘリウム不足による深刻な影響にさらされる可能性がある。韓国が2025年に輸入したヘリウム全体の64.7%がカタール産だったという。ただしSK hynixは、「ヘリウムの調達先を多様化し、十分な在庫を確保している」と主張している。
また、日本のヘリウムのトップサプライヤーである岩谷産業も、半導体メーカーをはじめとする顧客向けに安定供給を維持できると主張している。その理由として、ヘリウムは米国から調達していることや、米国と日本の両国に備蓄を確保していることなどを挙げる。カナダと米国も、カタールと並ぶヘリウムの最大供給国だ。
次に、半導体製造におけるもう1つの重要材料である臭素も、中東紛争による重大な供給リスクに直面している。臭素は、回路形成/半導体検査装置に使われる。
世界全体の臭素の約3分の2が、イスラエルとヨルダンから供給されている。韓国は現在、臭素全体の90%をイスラエルから調達しているという。SemiAnalysisのWang氏は「世界の半導体メーカーは、このような重要材料の調達方法を調整する必要に迫られるだろう」と述べる。
AIブームに「深刻な影響」? 3つの懸念
Amazonのアラブ首長国連邦(UAE)のデータセンターがイランのドローン攻撃を受けたことが大きく報じられているが、それよりもはるかに重大な問題が目の前にあることが見過ごされてしまっている。
まず1つ目の問題は、もしイランがイスラエルやカタール、UAEのデータセンターを攻撃した場合、AIチップの需要に大きな影響が及ぶ可能性があるという点だ。特に現在では、MicrosoftやNVIDIAのような米国のテクノロジー大手は、UAEをAIデータセンター向けの地域拠点として位置付けているということもある。
2つ目は、エネルギーコストの上昇によってAIデータセンターの建設が遅れ、そのために半導体需要が弱まる可能性があるという問題だ。AIデータセンターの消費電力量は、既存のデータセンターの約3〜5倍に達する。石油価格の高騰によってAIデータセンターの運用コストが大幅に上昇する可能性がある。その結果、ハイパースケールデータセンターのTCO(Total Cost of Ownership)が急激に上昇し、世界的なAIインフラの展開が脅かされることになるだろう。
そして最後の3つ目が、エネルギーコストは半導体製造において重要な要素であるという点だ。クリーンルームは常に電力と冷却を必要とするため、半導体メーカーは世界のエネルギー価格の変動による影響も受けやすい。
現在のところ、半導体製造に直ちに影響が及ぶかどうかは分からない。というのも、TSMCのような大手半導体メーカーは一般的に、短期的な供給混乱を乗り切ることができるよう、さまざまなサプライヤーを組み合わせ、特殊ガスや化学薬品を備蓄しているからだ。しかし、もし今回の戦争が長期化すれば、半導体サプライチェーンへの圧力はさらに強まっていくだろう。
TSMCは現在、カタールのヘリウム生産拠点の停止によって顕著な影響が及ぶとは考えていないようだが、情勢を監視していることは認めている。また別の大手ファウンドリーGlobalFoundriesも、現地のサプライヤーや顧客企業、パートナー各社と直接コンタクトを取り、緩和計画を策定していることを明らかにした。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
NVIDIA製GPU搭載サーバのコスト/スペックを分析してみた
今回はNVIDIAの決算分析に加え、同社製GPUがどのようなAIサーバに搭載され、どんな形や規模で大手ITベンダーのデータセンタに収まるのか、一連の流れについて考えてみた。
「NVIDIAとGroqの取引」がAI新興にもたらした2つの効果
2025年12月、NVIDIAがGroqを事実上買収することが発表された。この取引は、AI半導体を手掛けるスタートアップ各社に大きな波及効果をもたらしているという。
25年4QのDRAM市場、SamsungがSKから首位奪還
台湾の市場調査会社TrendForceによると、2025年第4四半期の世界DRAM市場ランキングにおいて、Samsung Electronicsが前四半期比43.0%増の成長を見せ、SK hynixを抜き再びトップの座を取り戻したという。
米国がAIチップの対中輸出を再開 米中は「管理された相互依存」に
米国政府は2026年1月、中国向けAIチップ輸出の方針を転換し、NVIDIA「H200」など一部製品の輸出を条件付きで認めた。輸出は個別審査の上、25%の関税などの厳格な管理がなされる。中国側も中国企業がこうしたチップを輸入する場合には一定数の国産チップを合わせて購入するよう求めていて、米中の半導体企業は政府の規制の間で板挟みの状況に置かれている。
2026年のメモリ市場は「制御された供給不足」に 主役はHBM4
TechInsightsのアナリストによると、「メモリメーカーは過去の好況と不況のサイクルから学び、AI主導の需要に対応するための増産において、より規律ある姿勢を示している」という。HBM/DRAMの供給不足が予測されているが、これはサプライチェーンの混乱によるものではなく、予想を超えるようなかつてない規模で導入が進んでいることが原因だ。
半導体業界 2026年の注目技術
編集部が選んだ2026年の注目技術を紹介する。