株価爆騰・キオクシアの「これまで」と「これから」を考える:大山聡の業界スコープ(102)(2/3 ページ)
株価が急騰したキオクシア。その背景には、AIの主戦場が学習から推論へ移り、SSD需要が急拡大したことがある。東芝時代からの歴史を振り返りつつ、同社の強みと今後の針路、日本の半導体政策の課題を考察する。
Western Digitalへの売却をSK Hynixが阻止?
2017年、東芝は子会社「東芝メモリ」を設立、翌2018年には米Bain Capitalが連合を組んで、約2兆円で東芝メモリを買収した。この連合の中には韓国SK Hynixも含まれており、競合でありながら「技術シナジー」「日本との関係強化」などを目的とした異例の出資であった。
一方でNANDフラッシュ市場は2018年末から不況期に入り、キオクシア(2019年に「東芝メモリ」から社名変更)の業績は低迷することになった。2020年には市況が回復するが、Bainが求めるような上場条件がなかなか整わなかったのだろう。何度か上場を延期する決定が下された。そして2022年後半からNANDフラッシュ市場は再び低迷を始める。キオクシアの赤字は拡大し、経営が厳しい状況に追い込まれた。
この時に浮上したのが「キオクシアをWestern Digital(以下、WD)に売却する」という案である。関係各社からの正式なコメントは一切公表されなかったが、多くのメディアが報道したので、覚えておられる方も多いだろう。この案は、表向きは「SK Hynixの反対によって破談となった」とされており、そのような報道も複数あった。ちなみに筆者はこの表向きの理由を全く信用しておらず、真相はもっと別のところにあると確信している。この辺りの詳細については、当時に詳しく述べているので、そちら(本連載第71回:キオクシアとWDの統合破談はポジティブに捉えるべき)を参照されたい。
株価が爆謄するのは上場後1年以上たってから
このような紆余曲折を経て、キオクシアは2024年12月に上場を果たした。上場の1年ほど前からNANDフラッシュ市場は回復基調に入っており、上場は「これがベストのタイミング」という判断があったのだろう。米NVIDIAがけん引役となって引き起こした「AIブーム」によって、半導体市場は好調に推移してきたが、NANDフラッシュはDRAMに比べて盛り上がりに欠けていた。
事実、2025年の前半、DRAM市場は好調だったが、NANDフラッシュ市場はマイナス成長に陥っていたのである。「DRAMはGPUと相性が良いが、DRAMの1000倍もレイテンシを要するNANDフラッシュにはAI特需が期待できない」というのがその当時の半導体業界の通説で、筆者もそう信じていた。メモリメーカーの中でも「NANDフラッシュの生産ラインの一部をDRAM製造に切り替えようか」という意見が出るほど、NANDフラッシュは期待されていなかったのである。
しかしNANDフラッシュ市場は2025年後半から徐々に上昇し始め、2026年初頭以降は「前年比3桁%成長」を記録している。後から分かったことだが、AI市場では「学習」機能から徐々に「推論」機能の強化へとステージが移行しつつあった。
AIの学習処理では、GPUとHBM(広帯域メモリ)の組み合わせが求められる。一方、推論処理では、学習によって得られたデータを保持し、必要に応じて迅速に読み出す必要がある。HBMは高速だが容量が限られるため、NANDフラッシュを記憶媒体とするSSDが必要になる。加えて、RAGやKVキャッシュを支える高速・大容量ストレージの需要も急増している。
これらの用途に最適化した専用製品の供給体制が整うまでの当面の対応として、ハイパースケーラーが既存のSSDを大量に調達している。こうした中、DRAMを製造せず、NANDフラッシュとSSDに集中するキオクシアが、その需要を取り込んでいるわけだ。
さらにキオクシアは、2026年末にも、従来のSSDに比べて低レイテンシかつ高速な「Super High IOPS SSD」を投入する。競合他社はDRAMの増産に追われ、NANDフラッシュの増産や高速SSDの開発が後手に回っていた。キオクシア以外のメーカーが同等の高速SSDを市場に投入できるのは、早くても2027年後半になりそうだ。
そうなると、キオクシアの「NANDフラッシュ市場における独り勝ち」は当面続きそうである。キオクシアの株価が爆謄するまで、キオクシアの価値、優位性に気が付かなかったのは、アナリストとして大いに反省すべきことだが、ようやく本領を発揮し始めた同社にはぜひとも頑張り続けていただきたいものである。
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