非接触で燃料電池を内部診断するモデル開発、筑波大:ビオ・サバールの法則を利用
筑波大学は、燃料電池内部の電流分布を非接触で推定するモデルを開発し、実験によりその精度を検証した。開発した手法を用いると、燃料電池の内部状態をリアルタイムかつ非接触で診断することが可能になる。
運転中に燃料電池の内部状態をリアルタイムにモニタリング
筑波大学システム情報系の秋元祐太朗助教らによる研究グループは2026年8月、燃料電池内部の電流分布を非接触で推定するモデルを開発し、実験によりその精度を検証したと発表した。開発した手法を用いると、燃料電池の内部状態をリアルタイムかつ非接触で診断することが可能になる。
固体高分子形燃料電池(PEMFC)は、水素と酸素の電気化学反応によって、直接電気を取り出せる。このため、燃料電池車や家庭用熱電供給システムなど分散型電源として実用化が進む。ただ、水の管理を適切に行う必要がある。
例えば、発電に伴って生じる水が電池内部に滞留する「フラッディング」や、電解質膜が乾いてしまう「ドライアウト」が生じると、出力の低下や材料の局所的劣化を引き起こす。これらの不具合を防ぐには、運転中のセル内部について、その状態を監視しておく必要がある。
そこで今回は、電流が流れると周囲に磁場が生じるという原理を利用した。燃料電池内で実測した電流と磁場のデータを用い、非接触で内部の電流分布を推定するモデルを開発した。
具体的には、カソード側の集電板を9つの領域に分割した電池を作製し、各領域の電流を測定した。カソードセパレーターに設けた穴からは磁気センサーのプローブを挿入。9点で電池内部の磁場を計測し、この測定データを「正解値」とした。次に、ビオ・サバールの法則に基づき、各領域の中心を貫く線電流がセルに垂直に流れると仮定し、計測した磁場から9本の電流値を求めるモデルを開発した。
開発したモデルを検証したところ、最適化手法(非負最小二乗法)の初期値α=0.54のケースでは、初期値α=0だった先行研究に比べ、推定精度が112%から平均13.4%まで低減するなど、実測の電流分布に近い結果が得られた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
新ポリマー半導体で有機薄膜太陽電池の性能向上、広島大ら
広島大学と京都大学、日本電子らの研究チームは、結晶性が低いポリマー半導体「PTNT2T」が、高い電荷移動度を示す起源を明らかにした。この材料を有機薄膜太陽電池(OPV)へ応用し、世界最高水準のエネルギー変換効率を実現した。
そっと触るだけで光る レアアース不要、電源不要の近赤外発光
東北大学の研究グループは、筑波大学や佐賀大学との共同研究により、酸化亜鉛の欠陥構造を制御することで、高価なレアアースを使わずに極めて高い感度の「応力発光」を実現した。電源不要の近赤外発光は、医療センサーやインフラ診断などへの応用が期待される。
有機薄膜太陽電池の課題を解決する新材料を開発、TRCら
広島大学と京都大学、理化学研究所、筑波大学および、東レリサーチセンターは、新たに開発した発電材料を用いることで、有機薄膜太陽電池(OPV)で課題となっていた「低電圧損失」と「高効率電荷生成」の両立を実現した。電圧と電流が同時に向上するという現象の起源も突き止めた。
二次元半導体の折り畳み手法を開発、東京大学ら
東京大学と北陸先端科学技術大学院大学、筑波大学らの研究グループは、液−液相分離によって形成される液滴を用いることで、二重構造の遷移金属ダイカルコゲナイト(TMDC)を作製するとともに、モアレ構造の形成を確認した。
次世代半導体材料をウエハー規模に成膜、NIMSら
物質・材料研究機構(NIMS)や東京大学らの研究グループは、MOCVD(有機金属化学気相成長)法を用い、高品質な単層膜厚の「二硫化モリブデン(MoS2)」を、ウエハースケールでエピタキシャル成長させる技術を開発、その成膜メカニズムを解明した。試作したトランジスタの電子移動度を測定したところ、室温で66cm2/Vs、20Kで749cm2/Vsを達成した。
パワー半導体の電力損失を低減できる仕組みを解明
三菱電機と東京科学大学、筑波大学および、Quemixは、シリコンに注入した水素が、自由電子を生成する仕組みを解明した。これによって、IGBTなどシリコンパワー半導体デバイスの電子濃度を高度に制御し構造設計や製造方法を最適化できれば、電力損失を低減することが可能になる。


