リチウムイオン電池長寿命化に向け、新たな電解液添加剤:負極の耐久性を大幅向上
北陸先端科学技術大学院大学の研究グループは、リチウムイオン電池のグラファイト負極を保護し、耐久性を大幅に向上させる新しい電解液添加剤(FPTI)を開発した。
FPTIを4mg/mL添加、SEI抵抗は2.2Ωに、電荷移動抵抗は19.8Ωに低下
北陸先端科学技術大学院大学物質化学フロンティア研究領域の松見紀佳教授、MANTRIPRAGADA,Bharat Sri Mitra助教、REDDI.Uday Sai大学院生(博士後期課程)らによる研究グループは2026年9月、リチウムイオン電池のグラファイト負極を保護し、耐久性を大幅に向上させる新しい電解液添加剤(FPTI)を開発したと発表した。
リチウムイオン電池では、充放電を安定して行えることから、負極材料にグラファイトを用いることが多い。使い始める時、負極表面には電解液の一部が分解して「固体電解質界面(SEI)」と呼ばれる薄膜が形成され、負極表面の保護膜として機能する。ただし、この保護膜は不安定で、場合によっては容量低下につながることもある。このため、安定した保護膜を形成する必要があるという。
そこで研究グループは、グラファイト負極の表面に安定した保護膜を形成する電解液添加剤として、フッ素を高濃度に含んだイミン化合物「FPTI」を設計した。FPTIは「3-チオフェンカルボアルデヒド」と「ペンタフルオロフェニルアミン」との反応により、94%の収率で合成した。
実験では、FPTIを電解液に添加し、グラファイトを負極、金属リチウムを対極とした試験用のCR2025型コインセルを試作し、その効果を調べた。計算化学(DFT計算)により解析したところ、FPTIは一般的な電解液成分やバインダーに比べ低いLUMO準位を持ち、グラファイト負極上で通常の電解液成分より、先に還元されやすいことが分かった。これによって、グラファイト負極の表面にSEIと呼ばれる保護膜が形成され、電解液の不要な分解を抑えられることが分かった。
FPTIを添加したセルでは、負極表面のSEI抵抗および、負極と電解液の間でリチウムイオンが移動する時の抵抗が低下した。例えば、FPTIを4mg/mL添加すると、SEI抵抗は2.2Ωに、電荷移動抵抗は19.8Ωとなった。添加しなかったセルではそれぞれ7.6Ω、41.8Ωだった。
リチウムイオンの移動しやすさを示す拡散係数は、2mg/mL添加系で2.92±3.96×10-13cm2s-1、4mg/mL添加系では3.58±3.74×10-13cm2s-1だった。非添加系の3.45±4.71×10-14cm2s-1に比べ、リチウムイオンは移動しやすくなることが確認された。しかも、負極表面を分析したところ、FPTIを添加したセルでは、フッ化リチウム(LiF)を多く含む安定したSEIが形成されていることが分かった。
長時間の充放電試験を行い、最初の3サイクルを0.1C、その後0.5Cで評価した。この結果、約200サイクル時の最大容量を基準とした1000サイクル時点の容量維持率は、FPTIを2mg/mL添加したセルで89.4%、、4mg/mL添加したセルで95.6%となった。FPTIを添加しないセルでは62.7%だった。FPTIを添加することでグラファイト負極の容量が低下するのを抑えられた。
さらに、NMC811正極とグラファイト負極を組み合わせたフルセルでも評価した。この結果、4mg/mLのFPTIで処理した負極を用いたセルでは、約233Whkg-1のエネルギー密度が得られた。なお、今回のフルセル試験はFPTIを実用電池の電解液に直接添加して性能を評価したものではなく、FPTIによってあらかじめ形成した負極側の保護膜について、その効果を検証したものだ。
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