結晶方位を利用した次世代スピントロニクスデバイスへ新成果:京都大学化学研究所ら
京都大学化学研究所は、米国ネブラスカ大学リンカーン校やNECと共同で、交替磁性体として注目される化合物「アンチモン化クロム(CrSb)」において、スピントルクの大きさと方向が、結晶方向に強く依存することを明らかにした。その主な起源が、CrSb/強磁性体界面の結晶・界面対称性にあることも示した。
最大のダンピングライクスピントルク効率はPtやTaなどに匹敵
京都大学化学研究所の研究グループは2026年9月、米国ネブラスカ大学リンカーン校やNECと共同で、交替磁性体として注目される化合物「アンチモン化クロム(CrSb)」において、スピントルクの大きさと方向が、結晶方向に強く依存することを明らかにした。その主な起源が、CrSb/強磁性体界面の結晶/界面対称性にあることも示した。
磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)などの磁気デバイスは、電流によって磁化の向きを制御する「スピントルク」が重要な役割を果たす。こうした中で交替磁性体は、全体の磁化がほぼゼロでありながら、大きなスピン分裂を持つことから、新しいスピン流源として期待されている。
しかも、結晶の対称性を活用すれば、これまでとは異なる方向のスピントルクを生み出せる可能性があるという。ところが交替磁性固有のスピン流生成機構や、結晶/界面の対称性に由来するスピントルクが、どのようにして現れるかまでは十分に解明されていなかったという。
研究グループは今回、マグネトロンスパッタリング法を用いて、結晶方位を制御したエピタキシャルCrSb/強磁性体ヘテロ構造を作製、スピントルク強磁性共鳴(ST-FMR)測定用デバイスに加工した。このデバイスを用い、外部磁場と電流の角度を変えながら共鳴信号を測定し、スピントルクの向きと大きさを成分ごとに評価した。さらに、CrSbの結晶軸に対し、電流を流す方向を変えた複数のデバイスを比較し、スピントルクの結晶方位依存性を調べた。
この結果、従来型のスピンホール効果だけでは説明できないスピントルクをCrSbでは観測できたという。電流の向きに対し通常とは異なる方向にスピン偏極成分が現れた。その大きさは、結晶に対し電流を流す方向を変えると大きく変化した。
2つの異なる結晶面を比べると、一部のダンピングライクスピントルクの向き(符号)が反転した。しかも、最大のダンピングライクスピントルク効率は、白金(Pt)やタンタル(Ta)に匹敵するという。対称性解析の結果、これらの特長はCrSb表面が持つC2V点群の結晶対称性によって許される「結晶学的スピントルク」として説明できることが分かった。
さらに、CrSb膜厚を変えてもスピントルクの大きさに変化は見られず、2つの結晶面で一部のトルク符号が反転した。これらのことから、観測された非従来型スピントルクは、CrSb内部のスピンホール効果ではなく、主にCrSb/強磁性体界面で生じていると考えられる。なお今回の試料では、交替磁性に強固な磁気スピンホール効果やスピンスプリッター効果に対する寄与は、見られなかった。
今回の研究成果は、京都大学化学研究所のTseng Chih-Hsiang博士後期課程学生(当時)や輕部修太朗特定准教授、小野輝男教授らによる研究グループと、佐藤良太特定助教や寺西利治教授らによる研究グループ、米国ネブラスカ大学リンカーン校のKirill Belashchenko教授および、NECの矢作裕太研究員らによるものである。
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