5倍伸ばしても壊れず、蒸れない導電フィルム:膜厚300nmと極薄
理化学研究所(理研)は、伸縮性と通気性に優れたナノスケールの異方性導電フィルム(ACF)を開発した。熱や圧力を加えなくても電子素子同士を接合でき、500%を超える引っ張りひずみを与えても接続部は破損しないという。
厚み方向のみに導通し面内方向では絶縁性を保つ異方導電構造を実現
理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター創発ソフトシステム研究チームの李成薫研究員と染谷隆夫チームディレクターらによる研究グループは2026年9月、伸縮性と通気性に優れたナノスケールの異方性導電フィルム(ACF)を開発したと発表した。熱や圧力を加えなくても電子素子同士を接合でき、500%を超える引っ張りひずみを与えても接続部は破損しないという。
皮膚などに密着させて生体信号を計測するウェアラブルデバイスや柔軟に変形するソフトロボットなどの開発が進む。これらの用途では、電子素子同士を接続し破損させることなく集積するための実装技術が求められる。
素子同士を接続する手法の1つとしてACFが採用されているが、これまでのACFは厚みが数マイクロメートル以上の製品も多く、接続部の柔軟性が損なわれることがあった。また、接続時に加熱などを行うことで損傷が発生することもある。通気性が低いと皮膚がかぶれるなどの課題もあった。
研究グループは今回、規則的に並んだ円盤状の金属ナノワイヤ(銀ナノワイヤ)を作製し、この上からエラストマーである「スチレン・エチレン・スチレン共重合体(SEBS)」を浸み込ませて成膜。膜厚が約300nmという極薄のACFを作製した。
SEBSの塗布濃度を最適化すれば、銀ナノワイヤの一部をフィルム表面へ適度に露出させられるという。これにより、厚み方向のみに導通し、面内方向では絶縁性を保つ異方導電構造を実現した。銀ナノワイヤの円盤構造がフィルムの伸びに応じて変形するため、500%を超える引っ張りひずみを加えても、接続部が破損しないことを確認した。
エタノールの揮発を利用し、大気中において常温、無加圧で接合できる技術を用い、電極フィルム同士を隙間なく接合させることにも成功した。これにより接合した後も曲率半径500μmの波状曲面や微細な凹凸面に密着させられるという。水蒸気透過率は1200g/m2/dayを達成した。
電気的特性を評価した。500%以上の引っ張りひずみを加えた状態や、伸縮を1000回繰り返した後でも、厚み方向の電気抵抗はわずかに変化しただけで済むなど、高い導通安定性を確認した。200μm間隔の電極間における絶縁性も維持された。
開発したフィルムの有用性も調べた。配線ピッチ500μmの伸縮配線基板上に発光素子を実装し、基板全体を500%引き伸ばした。この状態でも断線や短絡はなく安定して発光し続けた。開発したフィルムで伸縮配線同士を接続し、手首の皮膚上に実装し動作を検証したところ、正常に動くことを確認した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
高効率EUV光発生法で露光装置の消費電力を低減
理化学研究所(理研)と宇都宮大学らによる国際共同研究グループは、波長2μmの固体レーザーとマルチレーザー照射法を組み合わせることで極端紫外線(EUV)光変換効率を40%も高めることに成功し、その有用性を実証した。EUV露光装置の省電力化につながるとみている。
水や体液に強い厚さ約200nmの透明導電膜を開発、理研ら
理化学研究所(理研)らによる国際共同研究グループは、湿った環境や水中でも安定して動作する「透明導電ナノ膜」を開発した。雨水や海水、体液などへの耐久性に優れていて、ウェアラブルデバイスや透明な脳表面電極などへの応用に期待する。
鉛フリーペロブスカイトで巨大光電流、理研ら 太陽電池への応用期待
理化学研究所(理研)などの共同研究グループは、強誘電性を示す鉛フリーペロブスカイト薄膜で観測されるシフト電流応答が、可視光域で従来に比べ1桁以上も上回ることを確認した。鉛(Pb)を含まない環境調和型光電変換材料として太陽電池などへの応用が期待される。
最高速のガラス微細貫通穴加工技術を開発、理研
理化学研究所(理研)とエンプラス研究所の研究グループは、GHzバーストモード超短パルスレーザーを用い、ガラスに超高アスペクト比で高品質の微細貫通穴を、超高速で形成するための技術を開発した。チップレットや3次元実装など先端半導体デバイス製造における基盤技術として期待される。
ソニーが「業界最速」X線CMOSイメージセンサー量産
ソニーセミコンダクタソリューションズが、理化学研究所と共同で「業界最速」(同社)の撮像と低ノイズ性能を両立するX線CMOSイメージセンサーを開発した。X線検査/計測機向けに商品化し、量産出荷を開始する。
広い視野で高精細に観察できるX線撮影技術、理研ら
理化学研究所(理研)と大阪大学の研究グループは、ナノメートル領域で一瞬に起こる構造変化などを、広い視野で高精細に捉えることができる「X線撮影技術」を開発した。



