低消費電力磁気メモリへ 「ひずみ」で磁気相互作用を創出:人工反強磁性体に交互ひずみを導入
名古屋大学は、磁性材料に加えるひずみを層ごとに変えることで、新たな磁気相互作用を生み出せることを千葉大学と共同で実証した。材料そのものを変えず、機械的な変形やひずみを利用して磁性を制御できる可能性を示した。次世代の低消費電力磁気メモリやスピントロニクスデバイスへの応用が期待される。
機械的な変形やひずみを利用して磁性を制御
名古屋大学は2026年10月、磁性材料に加えるひずみを層ごとに変えることで、新たな磁気相互作用を生み出せることを千葉大学と共同で実証したと発表した。材料そのものを変えず、機械的な変形やひずみを利用して磁性を制御できる可能性を示した。次世代の低消費電力磁気メモリやスピントロニクスデバイスへの応用が期待される。
磁石内部では、電子が持つ微小な磁気(スピン)が互いに作用しながら配列している。この配列を決める要素の1つが「Dzyaloshinskii-Moriya(DM)相互作用」と呼ばれる現象である。スキルミオンなど特殊な磁気構造の形成にも深くかかわっているという。ところが、DM相互作用を発現させるには、特殊な結晶構造や界面設計によって材料に反転対称性の破れを導入する必要があった。
研究グループは今回、磁性金属コバルト(Co)とルテニウム(Ru)からなる人工反強磁性体に着目した。各磁性層に加わるひずみの向きを交互に変化させることで、層ごとに局所電場が反転する構造を考案した。具体的には、フレキシブル基板上にCo/Ru磁性多層膜を形成し、成膜中に基板の曲げ方向を制御することで、各層に交互または一様なひずみを導入した。このひずみによって各層内に局所電場が生じ、各層の対称性が変化するという。
理論解析の結果、交互にひずみを導入すると、隣り合う層で符号が反転する「交互DM相互作用」が生じることが分かった。さらに、交互DM相互作用は従来型のDM相互作用に比べ極めて大きく、磁化反転過程に大きな影響を及ぼすことも分かった。マイクロマグネティックシミュレーションによる解析でも、交互DM相互作用を考慮した場合のみ、実験で得られた磁気応答が再現されることを確認した。
左図はフレキシブル基板を利用してCo/Ru磁性多層膜中、交互にひずみを導入する手法の概要。右上図はCo/Ru磁性多層膜中に交互ひずみがある場合とない場合の磁性曲線。右下図はマイクロマグネティックシミュレーションで再現した磁化曲線[クリックで拡大] 出所:千葉大学
今回の研究成果は、名古屋大学大学院工学研究科の岩田悠楽氏(当時は学部生)、古牧怜寿博士前期課程学生、林兼輔助教、飯浜賢志准教授、森山貴広教授らによる研究グループと、千葉大学大学院理学研究院の佐藤正寛教授らによるものである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
AIを活用し目的に応じた電源回路を設計、千葉大ら
千葉大学と東京理科大学の研究チームは、高周波電源回路をAI/機械学習で自動設計する新たな手法を開発した。用途や優先順位に応じた設計を提示するとともに、部品選定を含む統合設計が可能となる。2年以内の実用化を目指す。
発電もできる有機EL素子、千葉大学らが開発
千葉大学やNHK放送技術研究所、京都大学らの共同研究チームは、1つの素子で「太陽光発電」と「発光」という2つの機能を備えた「発電できる有機EL素子」を開発した。
「鉄とマンガン」が半導体の微細化を進化させる?
高知工科大学と千葉大学の研究グループは、鉄(Fe)とマンガン(Mn)を組み合わせることで、自己組織的な縞模様が形成されることを確認した。原子が規則正しく並んだ縞模様は「原子のレール」とも呼ばれ、次世代半導体デバイスにおける極微細配線技術などへの応用が期待される。
パワエレ回路設計の転換点 無線電力伝送システムをAIで自動設計
千葉大学と東京理科大学、崇城大学の研究チームは、機械学習(ML)と数値最適化により、負荷変動に依存せず安定した出力電圧と高効率動作を可能にする「高周波無線電力伝送システム」を全自動で設計できる新たな手法を開発した。負荷非依存(LI)動作を実現するための新たな回路構成も発見した。3年以内の実用化を目指す。
粘着テープでぺりぺりはがすと……磁気量子センサーになる薄膜
千葉大学と高知工科大学、物質・材料研究機構(NIMS)の研究チームは、セレン化ニオブ(NbSe2)結晶表面に貼り付けた粘着テープを剥がすと、表面の原子層がひずみ、ハニカム格子状の二次元電荷密度波(CDW)が出現することを発見した。しかも、この表面に弱い磁場を加えると一次元CDWに切り替わることが分かった。
特殊なレーザー光で、ねじれた磁性単結晶を印刷
大阪公立大学と千葉大学の共同研究グループは、「光渦」と呼ばれる特殊なレーザー光を照射し、ねじれた構造をもつ直径数マイクロメートルの単結晶を、狙った場所に精度よく印刷することに成功した。単結晶のねじれ方向は、光渦の回転方向で制御できるという。
