「鉄とマンガン」が半導体の微細化を進化させる?:自ら規則正しい縞模様構造を形成
高知工科大学と千葉大学の研究グループは、鉄(Fe)とマンガン(Mn)を組み合わせることで、自己組織的な縞模様が形成されることを確認した。原子が規則正しく並んだ縞模様は「原子のレール」とも呼ばれ、次世代半導体デバイスにおける極微細配線技術などへの応用が期待される。
磁気フラストレーション解消に向け、Mn原子が上下に変位
高知工科大学と千葉大学の研究グループは2025年9月、鉄(Fe)とマンガン(Mn)を組み合わせることで、自己組織的な縞模様が形成されることを確認したと発表した。原子が規則正しく並んだ縞模様は「原子のレール」とも呼ばれ、次世代半導体デバイスにおける極微細配線技術などへの応用が期待される。
研究グループはこれまで、原子が持つ磁石の性質「原子磁石(スピン)」に着目し、身近な金属を用いて研究を行ってきた。用いた材料は強磁性体の「Fe」と反強磁性体の「Mn」である。これらは、原子磁石として正反対の性質を示す。
今回の研究では、これらの材料が接する面で引き起こされる「磁気的なせめぎ合い」によって、自己組織的な縞模様が生じることを実験と理論計算により解明した。実験では、面方位が「110面」というFe表面に、原子1個分の厚みでMn原子を堆積し、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて電子の状態を観察した。
これにより、Fe表面は原子レベルで平たんだが、その上に作製したMn薄膜の部分には、幅が0.72nmという極めて規則正しい縞模様が形成されていることを確認した。こうした構造が自発的に形成される理由を解明するため理論計算を行った。
強磁性のFeは「全ての原子が同じ方向を向きたがる」性質があり、反強磁性のMnは「隣り合う原子が互いに逆方向を向きたがる」性質がある。これによりFeとMnの接合面で磁石の向きが競合し、「磁気的なせめぎ合い(磁気フラストレーション)」が生じていることが分かった。不安定な状態を解消するため、Mn原子はわずかに浮き上がったり沈み込んだりして凹凸となり、エネルギー的に安定した縞模様の構造になることを確認した。
縞模様の構造は室温でも保持され、表面の欠陥にも影響を受けにくい優れた安定性を有することも分かった。研究グループによれば、縞模様の溝に沿って特定の機能を持つ分子を並べれば、「分子ワイヤー」や新しい「センサー素子」などを作製できるとみている。さらに、スピントロニクスへの応用にも期待している。
今回の研究成果は、高知工科大学の稲見栄一教授と千葉大学大学院のピーター・クリューガー教授、同大学院修了の林宏樹氏、同大学院の山田豊和准教授らによるものである。
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