「日本市場さえ見ていれば、戦略的マーケティングはいらない」――STのMEMS事業は日本を最重要視:ビジネスニュース 企業動向
STマイクロエレクトロニクスは2013年6月17日、都内でMEMS/センサー事業に関する事業説明会を開催した。「世界トップシェア」とする民生向けモーションセンサーに加え、車載用途向けビジネスや圧力/温度などの環境センサーやMEMSマイクといった新たなMEMSデバイスビジネスの拡大を目指す。
2013年6月17日、STマイクロエレクトロニクスが都内で開催した説明会の冒頭、同社エグゼクティブ・バイスプレジデントでアナログ・MEMS・センサグループのジェネラル・マネージャを務めるBenedetto Vigna氏は、「私は、日本に来ると毎回、うれしくなる」と切り出した。
任天堂「Wii」から始まったSTのMEMSビジネス
「なぜなら、STのMEMSは、日本で始まったからだ。STのMEMSビジネスがスタートした8年前は、STの存在は非常に小さかったが、今や10億ドルを売り上げるMEMS市場で最大の企業となった。日本企業のサポートがなければ、今日の地位はなかった」と日本に対する特別な思いを口にした。
実際、STのMEMS事業は、2006年に任天堂の家庭用ゲーム機「Wii」のリモコンに加速度センサーが採用されてから躍進が始まった。MEMSセンサーの代表格である加速度センサー、ジャイロセンサーといったモーションセンサーで「世界トップシェア」(Vigna氏)を築いた。STによると現在、モーションセンサーの最大用途であるスマートフォン/タブレット端末でもトップシェアを有し、搭載OS別にみても、iOS搭載機で75%、Android搭載機で31.4%、Windows搭載機で54.4%と、それぞれでトップシェアを築いているとする。「2012年、モーションセンサーの世界市場平均成長率が16.6%だったのに対し、STは30%とほぼ市場の2倍の成長を記録した」と話す。
モーションセンサー以外でのシェア拡大に挑む
しかし、今後2〜3年先を見据えたモーションセンサー市場における目標としてVigna氏は、「シェア60%を下回らないようにする」とモーションセンサーでの売り上げ拡大を目指すものの、今以上のシェア拡大は望んでいないという姿勢を示す。「モーションセンサー同様、強い地位にあるプリンタ向けMEMSアクチュエータも同様にシェア60%以上の維持が目標」と付け加える。
その代わりに、モーションセンサーやプリンタ用アクチュエータ以外のMEMSセンサー、MEMS応用デバイスでのシェア獲得に注力していく方針だ。
既に、モーションセンサー、プリンタ用アクチュエータに続く、第3、第4の製品ビジネスの立ち上げに取り組んでいる。その1つがMEMSマイクだ。「MEMSマイクは非常に重要だ。スマートフォン本体だけでなく、ヘッドセットにも複数のマイクが使用される。特にノイズキャンセリング機能用のMEMSマイクは、小型ながら非常に高い精度が要求される。当社のMEMS技術が生きる部分だ」と語る。
狙いは「環境センサー」「アコースティックセンサー」など
STはモバイル機器向けセンサー製品としてタッチパネルセンサー制御ICの展開も2012年から本格化させている。写真は、画面から2〜3cm程度離れた指でも検知するタッチパネル制御ICの「ホバリング機能」のデモ (クリックで拡大)
STでは、今後のスマートフォンには、加速度/ジャイロ/電子コンパスといった「モーションセンサーハブ」、MEMSマイクなどの「アコースティックセンサーハブ」、圧力/温度/湿度センサーといった「環境センサーハブ」と“3つのセンサーハブ”が搭載されると予想し、環境センサーの製品展開も加速している。「マイクや電子コンパスなど、まだまだ市場でシェアの低い製品分野でも、今後2〜3年のうちに40%ぐらいのシェアにまで引き上げる」と高い水準の目標を設定する。
車載、医療、IoTもターゲット
製品ポートフォリオを積極的に広げていくだけでなく、既に実績あるスマートフォン、ゲーム機以外の幅広い用途への展開も強める。車載、医療、IoT(モノのインターネット)といった分野だ。IoT向けでは、各種センサーの展開だけでなく、超低消費電力のRFチップの開発もMEMS事業部門で手掛け、IoT用センサー端末向けターンキー型ソリューションを提供できる体制を整える。医療分野に向けても、心電図や脈拍などを測定できるウェアラブル端末(評価用)を作成している(関連記事:「医療」の進化はエレクトロニクスが引っ張る! MEMSセンサー/USB 3.0などを提案)。その他、酸素や二酸化炭素などを検知するガスセンサーや化学物質センサーなどの開発も進める。
車載向けには、モーションセンサーなどの展開をスタート。2012年にエアバッグ用加速度センサーの量産をスタートさせ、「日本でも、車載向けで契約を獲得している」とし急速にビジネスを立ち上げていく。
2ケタ成長を持続させる
Vigna氏は、「一部、例外はあるが、基本的に新しいことは日本で生まれている。日本は開発ロードマップを定義する上で、最も重要な市場であることは変わらない」と継続して日本市場、日本企業のニーズを見極めた製品展開、事業展開を実施していく方針。「社内で、他部門と同様にMEMS部門に、“戦略的マーケティングを行うチームを設置すべき”という助言を何度ももらうが、その度に“そんな時間があれば、日本の市場、日本の企業を勉強する”と答えている。日本さえ見ていれば、戦略的マーケティングはいらない。それほど、イノベーションは日本から生まれている」とVigna氏は日本重視の考えを強調した。
STの日本/韓国法人社長で本社エグゼクティブ・バイスプレジデントを務めるMarco Cassis氏は、「現状10億ドルのSTとしての日本・韓国地区売上高を今後5年で倍増させる計画だが、その成長の大きな部分はMEMS製品の売り上げ拡大によるところが大きい。少なくとも年率2ケタの成長率で、日本・韓国地区でのMEMS関連売上高を伸ばしていく」と抱負を語った。
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