石油は本当に枯渇するのか?:世界を「数字」で回してみよう(12) 環境問題(5/5 ページ)
あと10年、あるいは条件によってはあと5年で石油は枯渇する――。そのようなデータが飛び交っていますが、果たしてこれは本当なのでしょうか。今回は、筆者が常々疑問に思っていた、「石油は本当に枯渇するのか」について数字を回してみようと思います。
付録:「死体」という表現をめぐる攻防
後輩:「だから! この「死体」という表現はマズいですってば!」
江端:「『海洋生物の死骸』と書いている以上、そのバランス上、『人間の死体』と表記するしかないだろうが」
私は、自分のコラムをEE Times Japanの編集部に提出する前に、会社の後輩たちからレビューを受けることにしています。
彼らは、私のコラムを、『公平な視点から客観的な評価をする』―― などということには全く興味はないようです。ただ、『自分の知識と主観にのみに基づき、私のコラムにイチャモンをつけること』のみに興味があるように見えます(当然、彼らは否定していますが)。
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後輩:「江端さん。いいかげん、その理系脳の発想やめましょうよ。この表現が、ロジカルであることは認めます。しかし、世の中の一定数の人は、ロジカルにモノを考えません」
江端:「知っている」
後輩:「賭けてもいいですけどね、『死体で数量を測るとは、なんて非常識な奴だ』というような、全く検討違いのコメントを付けてくるヤツがいますよ」
江端:「賭けてもいいけど、絶対にいると思う」
後輩:「分かっていてやっているんですか? 炎上を狙っているのですか?」
江端:「だって、「タンカーの数」の話なんかしたって、石油消費量のすごさを伝えられると思うか? 私たちが過去の生物たちの尊い貢献の上に成り立っていることや、地球がCO2を必死で地中に封じ込めてきたことを、普通の言葉で迫れると思うか?」
後輩:「江端さんが正しいとしても、私はレビューアとして、『人間の死体』という記載の原稿を通すことはできません」
江端:「著者として、私は、この表現を変えるつもりはない」
後輩と私の意見は対立して、こう着状態となり、どちらも譲歩する気配すらありません。
最後に切り出したのは、私でした。
江端:「わかった。では、今のこの会話を“付録”として付ける、ということでどうだろうか。双方の顔が立つと思うが」
後輩:「分かりました。それで手を打ちましょう」
と言いながら、後輩は、私に背を向けて歩き出しました。
と、その時、後輩が私の方を振り返って言いました。
「江端さん。今回のコラム、珍しくよかったですよ。江端さんも、やればできるじゃないですか」
と言って、そのまま去っていきました。
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心の中で、拳を握り、
―― こいつ、いつか殴る
と誓いながら、彼の背中を見続ける私でした。
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Profile
江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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