量子コンピュータ並み!? 「組み合わせ最適化問題」を瞬時に解く新型コンピュータ:新技術(2/2 ページ)
日立製作所は、膨大なパターンから実用に適した解を導く「組み合わせ最適化問題」を、量子コンピュータ並みの性能で実現する新型コンピュータを試作した。室温での動作が可能で、従来コンピュータに比べると電力効率は約1800倍となる。
「現行の量子コンピュータの40倍」
日立製作所は、今回開発した「高速計算を可能とするイジング計算アーキテクチャ」と「CMOSアニーリング技術」、および65nmの半導体プロセス技術を用いて、2万480パラメータを入力可能なコンピュータを試作した。試作機で実証実験を行った結果、システムが室温で動作することを実証するとともに、2万480パラメータの大規模組み合わせ最適化問題を、わずか数ミリ秒で解けることを確認した。パラメータ数は現行の量子コンピュータの40倍となる。また、従来コンピュータを使った場合に比べて、電力効率は約1800倍に改善されることも確認した。さらに、14nmプロセス技術を用いると、1600万パラメータに対応できるチップも実現可能だという。
組み合わせ最適化問題とは、大規模かつ複雑化する社会システムの課題を解決するために、最適な組み合わせを見出すための手法として注目されている。例えば、都市部における交通渋滞の解消や、電力送電網による安定したエネルギー供給、グローバルサプライチェーンにおける物流コストの最小化、などを実現するために、膨大な組み合わせ(パターン)の中から、最適な解(組み合わせやその順序)を算出し、実社会に適応させていくことを目的としている。
現在は最適化問題を解く手法として、量子アニーリングと呼ばれる量子力学を応用した計算手法を使った量子コンピュータが提案されている。問題解決に当たっては、磁性体の振る舞い(物理現象)を数学的に表現する「イジングモデル」に変換して処理が行われる。しかし、量子コンピュータだと、動作環境として極低温に冷却する必要があり、そのための装置が必要となる。また、量子アニーリングに超電導素子が必要なため回路を大規模化することが困難な状況となっている。日立が開発した新型コンピュータは、さらに大規模・複雑化する社会インフラの課題を解決する技術として期待される。
今回の研究成果は、半導体集積回路に関する国際学会「2015 ISSCC」(2015年2月22〜26日に米国サンフランシスコで開催)で発表された。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 日立、パワー半導体の分社化を発表――2015年度売上高300億円を狙う
日立製作所は2013年10月から、パワー半導体事業に関する機能を子会社「日立パワーデバイス」に集約し、同事業を強化すると発表した。 - 日立オートモーティブがマキシムの電池監視ICを採用、日産のハイブリッド車に搭載
Maxim Integrated Products(マキシム)は、同社の車載二次電池セル監視ICが、日産自動車の北米市場向けハイブリッドSUV「パスファインダー ハイブリッド」に採用されたと発表した。 - サンケン電気が日立超LSIのデジタル電源向けマイコンを買収、車載市場に展開
サンケン電気は、日立超LSIシステムズのデジタル電源向けマイコン事業を買収する。サンケン電気が得意とするパワー半導体や電源回路設計の技術と融合して、次世代のデジタルパワー制御ソリューションの開発を加速。主に車載市場に展開していく方針だ。 - 日立ハイテクが実装機事業から撤退、ヤマハ発動機に資産を譲渡
日立ハイテクノロジーズ(日立ハイテク)が表面実装機事業から撤退すると発表した。併せて、表面実装機事業の資産をヤマハ発動機に譲渡することも明らかにした。譲渡金額は公表していない。 - スマートシティのデータ網は無線でつなぐ、920MHz帯モジュールを日立が試作
日立製作所と日立産機システムが試作した無線通信モジュールは、920MHz帯に対応し、出力電力が250mWと大きいことが特徴である。対象用途は、産業システムのデータ収集をはじめ、スマートグリッドやスマートシティの長距離の無線データ伝送と幅広い。