太陽電池、これまで10年これから10年(前編):『EE Times Japan 10周年』特別編集(6/6 ページ)
EE Times Japan創刊10周年を記念し、主要技術の変遷と将来を紹介する。太陽電池は燃料を必要としない未来の技術としてもてはやされてきた。しかし、国の産業政策は必ずしも成功してはいない。では技術開発の進展はどうだったのか。これまでの10年とこれからの10年を紹介する。
化合物半導体が追い抜くか
停滞するシリコン太陽電池の地位を急速に脅かしているのが、化合物系の太陽電池だ。世界市場で量産規模に優れるのはそのうち2つ。銅とインジウム、セレンを主に使うCIGS(CIS)。もう1つはカドミウムとテルルを使うCdTeである。
PV2030では、CIGSの変換効率を2020年時点で25%(セル)、18%(モジュール)としていた。CISの最大手企業であるソーラーフロンティアは2014年に小面積セルで20.9%の記録を発表している。図10の傾向を見る限り、多結晶シリコン太陽電池のような停滞は感じられない。
米FirstSolarが開発、製造、販売するCdTe太陽電池は、国内にはほとんど導入されていない。しかし、米国や欧州を中心に累計10GW以上を設置。多結晶シリコン太陽電池と競合している。CdTeは国内に未導入だったことから、PV2030(PV2030+)ではほとんど触れられていない。だが、変換効率や製造コストの改善は著しい。
実際に世界市場で1W当たりのモジュールの価格が1米ドルを初めて下回ったのはCdTe太陽電池だ。2009年に0.98米ドル/Wだと発表している。PV2030で2010年に達成を目指していた100円/Wをクリアした形だ(2010年の為替相場は1米ドル=88円)。
当時は安価であるものの、シリコン太陽電池と比較して変換効率では劣るという評価だった。CdTeは当初から変換効率があまり伸びないと考えられていた。NEDOの資料によれば、2010年時点のCdTeの変換効率は最大11%(モジュール)*11)と低い。
だが、2015年1月には研究段階のセルで21.5%の世界記録を達成、2015年6月15日にはモジュール変換効率18.6%を達成したと発表している。図10にあるように変換効率の改善速度が著しい。
「太陽電池、これまで10年これから10年(後編)」では、そもそもなぜFirstSolarがCdTe太陽電池を選んだのか、CdTe太陽電池にはどのような可能性があるのかを、同社の最高技術責任者に聞いた。
*11) 同時期の他の変換効率は以下の通り。単結晶シリコン(最大20%)、多結晶シリコン(最大15%)、アモルファス薄膜シリコン(最大9%)、CIS(最大12%)とある。
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