「電力が1分間止まるだけでも困る」、TSMCが台湾政府に苦言:長引く電力不足
長期的な電力不足に悩む台湾。間もなく、夏のピーク需要時間における電力制限が始まることを受け、世界最大のファウンドリであるTSMCが「当社は1分間でも電力が止まると、やっていけない」と、政府に対して苦言を呈している。
TSMCは、長引く電力供給問題を解決するよう、台湾政府に求めている。電力の供給はTSMCのビジネスにも大きな影響を与えるからだ。
TSMCのチェアマンであるMorris Chang氏は2015年7月3日(台湾時間)に、「TSMCは、わずか1分間でさえ、電力供給なしではいられない」と報道陣に語っている。
Chang氏のコメントは、台湾の公営電力会社である台湾電力が、「夏のピーク需要時間における電力制限を間もなく開始する」と発表したことを受けてのものだ。台湾電力は、1日当たり1000W以上を消費する企業に対しては、電力供給を制限する24時間前に知らせるとしている。
TSMCの広報担当者であるElizabeth Sun氏は、TSMCは、急な電力不足にも対応できるよう、工場内に十分な電力源を持っているとEE Timesに説明した。一方で同氏は、もし台湾政府が長引く電力問題に対処できない場合、今後5〜10年にわたり、TSMCの事業に影響を与える可能性もあると懸念を示している。「政府には、安定して電力を供給してほしい。台湾政府は、電力供給に関する長期的な計画を明らかにしていない」(Sun氏)。
自然災害にも悩む
世界1位と2位のファウンドリ(TSMCとUMC)を抱える台湾は、世界中のICの約5分の1を製造している。だが、台湾のチップ製造メーカーは、地震や干ばつ*)、電力不足などの課題に直面している。ここ2年間は、そうした自然災害や電力問題によって、何度も製造の一時中止を余儀なくされた。
*)関連記事:台湾の干ばつが深刻化――半導体業界も水の確保に追われる
台湾は、原子力発電所についても問題を抱えている。台湾では現在、3カ所の原子力発電所が稼働している。だが、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故を受け、台湾で10万人以上が“反原発”のデモを行った後、4カ所目の原子力発電所の建設については凍結された。台湾では、原子力発電による電力供給の割合は約16%となっている。
Sun氏は「TSMCは、原子力発電所を廃止するかどうかについては、特定の意思を表明するつもりはない」と述べている。同社は単に、台湾政府には、将来的な電力不足に対処すべく新たな電力供給計画を出してもらいたいだけだという。
電力供給問題が解決されない場合、TSMCは、生産量を変更せざるを得ないかもしれない。同社の大半の工場は台湾にあるが、米国、シンガポール、中国にも小規模の生産工場を持っている。
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