ナノワイヤと非シリコン材料で「ムーアの限界」を突破:福田昭のデバイス通信 IEDM 2015プレビュー(6)(3/3 ページ)
今回はセッション13〜15の概要を取り上げたい。セッション15では、「モア・ムーア(More Moore)」と「モアザン・ムーア(More Than Moore)」の両方に関する研究成果が発表される。「モアザン」については、フランスの研究チームが折り曲げ可能なCMOS回路を紹介する。
ナノワイヤのGeトランジスタと化合物トランジスタ
セッション15(プロセス技術と製造技術)のテーマは「ムーアとモア(Moore and More)」である。ムーアの法則をさらに進めようとする「モア・ムーア(More Moore)」と、ムーアの法則とは別の方向に半導体デバイスを進化させる「モアザン・ムーア(More Than Moore)」の両方の研究成果が披露される。始めは「モア」に関連する講演を一部紹介する。
台湾のNational Nano Device Laboratoriesなどの共同研究グループは、電流のオン/オフ比が10の8乗と極めて大きなGe pチャンネルMOSFETの開発成果を発表する(講演番号15.1)。Geナノワイヤチャンネルの周りをゲートで囲んだゲートオールアラウンド(GAA)構造のFETである。Geナノワイヤの表面を{111}方向にそろえたダイヤモンド形にすることで、サブ10nmの微細な構造で高い移動度を実現するという。
シンガポールのNational University of SingaporeとNanyang Technological Universityの共同研究チームは、InAs層とGaSb層を交互に積層することで、InAsナノワイヤnチャンネルFETとGaSbナノワイヤpチャンネルFETのCMOS回路を実現する手法を報告する(講演番号15.4)。Si基板にSiO2層、Ge層、GaAs/GaSbバッファ層を積み重ねた構造を作製し、その上にナノワイヤ層を積層した。実際にFETを試作し、動作を確認している。
「モアザン」に関連する講演では、折り曲げ可能なCMOS回路の研究成果が発表される。フランスのIEMN(Institut d’Electronique de Microélectronique et de Nanotechnologie)を中心とする共同研究グループは、折り曲げ可能な基板にCMOS回路の薄膜を転写することで、高い性能を維持しながら折り曲げ可能な高周波CMOS回路を試作した(講演番号15.7)。初めにSOI基板に高周波CMOS回路を作製する。そして裏面をはく離することで、高周波CMOS回路を厚さ30μmにまで薄くし、別の基板(プラスチック、ガラス、あるいはステンレススチール)に転写する。転写後のRF CMOS回路は、小信号特性については劣化はあまり見られなかったという。
(次回に続く)
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