MRAM開発に新しい道? 欧州が研究成果を発表:スピンホール効果と交換バイアスを利用
MRAMの開発を加速させる可能性がある新しい技術を、オランダの大学が発表した。スピンホール効果と交換バイアスを利用するもので、研究チームは、処理速度や記録密度、コストの面でMRAMが抱える課題を解決できると見込んでいる。
メモリ業界は、SRAMのような処理速度と、フラッシュメモリのような記録密度と、ROMのような低コストを兼ね備えた不揮発性メモリの開発を目指している。オランダのEindhoven University of Technology(TU/e:アイントホーフェン工科大学)の研究チームは、こうした課題をクリアする可能性のあるMRAMを発表した。このMRAMが実用化されれば、他のメモリを置き換える“万能な”メモリになると期待される。
MRAMメーカーは、処理速度と記録密度の向上およびコストの削減に取り組んでいるが、実現には3年以上かかると考えられていた。だが、TU/eの研究チームは、「field-free magnetization reversal by spin-Hall effect and exchange bias(スピンホール効果と交換バイアスによるフィールドフリー磁化反転)」もしくは「current bending(電流屈曲)」と呼ぶ独自に開発した画期的な新手法で、これらの課題を解決する道筋を見つけたという。
低周波のパルス電流によって正しいスピンを得るために曲がって進んできた電子により、磁気ビットは即座にスイッチされる。さらに、特殊な反強磁性体によってプロセスが低コストになる 出典:Arno van den Brink
TU/eの物理研究チームを率いるHenk Swagten教授は、科学雑誌「Nature」に発表した論文の中で、「ビット寸法が小さくなると、磁気ビットの書き込みに非常に大きな電流密度が必要になる。垂直磁性層と反強磁性体を接合し、電流の流れる方向に沿って、面内交換バイアス(EB)を作り出す。われわれは、このEBで作り出された面内磁場のみを使った磁化反転によるスピンホール効果を実証した」と説明している。研究チームは、これを「current bending」と呼び、MRAMの課題を解決する手法だとしている。
MRAMに詳しい人であれば、TU/eの研究チームが、トンネル障壁を介して電荷を蓄積/放出するのではなく、電子スピンが上向きか下向きかによって「1」「0」を判別していることに気付くだろう。いわゆるスピンホール効果によってエネルギー消費を極限まで抑えている。
TU/eの研究チームは、「同技術は非常に速い処理速度を達成したが、コスト面ではまだ改善の余地があった。そこで、ビットセルを安価な反強磁性体の層で覆うことで、コスト面での課題を解消した。磁気を効率的に“フリーズ”させることで、高速、高密度、低コストという目標を実現した」と述べている。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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