SRAMの消費電力と設計の課題:福田昭のデバイス通信 ARMが語る、最先端メモリに対する期待(14)(2/2 ページ)
今回は、SRAMの消費電力と設計課題について解説する。SRAMの低消費電力化に効果的なのは電源電圧を下げることだが、これには、書き込み不良と読み出しディスターブ不良という問題が付きまとう。
高密度化と低消費電力化がSRAM設計の課題
SRAMの設計課題は大別すると、高密度化と低消費電力化の2つに分けられる。高密度化を支えるのは、主に加工技術の微細化である。ただし単純にサイズを小さくすると、電流のばらつきが相対的に大きくなり、リーク電流が増加する。そしてメモリセルの雑音余裕(SNM:Static Noise Margin)が低下する。設計技術の工夫によってこれらの問題に対処しなければならない。
低消費電力化を支えるのは、電源電圧(Vmin)を下げることである。ただし単純に電源電圧を下げると、書き込み余裕が減り、読み出しの雑音余裕(SNM)が減り、データ保持時間が短くなる。それだけではなく、書き込み不良、読み出しディスターブ不良、アクセス不良、データ保持不良といった不良の発生確率が増加する。
書き込み不良と読み出しディスターブ不良が電源電圧を制限
電源電圧(Vmin)の最小値は大抵、書き込み不良あるいは読み出しディスターブ不良によって決まる。電源電圧を下げていくと通常は、どちらかの不良が目立ち始めることで、電源電圧をそれ以下には下げられなくなる。書き込み不良と読み出しディスターブ不良のどちらが支配的であるかを予測することは難しい。ただし50nm以下に微細化した領域で作製したシリコンではしばしば、書き込み不良が電源電圧を制限するという結果が出ている。
読み出しディスターブ不良を軽減する代表的な手法は、メモリセルのアーキテクチャを変更することである。SRAMの一般的なメモリセルは6個のトランジスタで構成されている。トランジスタを増やして8個のトランジスタでメモリセルを構成すると、読み出しディスターブ不良が起こりにくくなる。ただし、メモリセルのシリコン面積は拡大する。すなわち記憶容量当たりの製造コストが増加するとともに、高密度化を妨げる。
書き込み不良を軽減することは、非常に難しい。研究論文レベルではさまざまな手法が提案されている。しかし製品化された一般的な手法というレベルには至っていない。
(次回に続く)
⇒「福田昭のデバイス通信」連載バックナンバー一覧
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 超高速DRAM技術「HBM」の基礎
今回は、「3次元(3D)技術はDRAM開発にとって援軍ではあるが救世主ではない」という事実とともに、3D技術を用いた超高速DRAM「HBM」とはどのようなDRAMなのかを紹介していく。 - 東芝、3D NAND新工場建設を決定
東芝は2016年3月17日、3次元構造のNAND型フラッシュメモリ専用工程に対応する新工場建設を決めた。 - 10nmプロセス以降に焦点、“微細化のその先”も
2016年6月に米国ハワイで開催される「2016 VLSI Symposia on VLSI Technology and Circuits」では、10nm以降のプロセス技術の研究成果も多数発表される予定だが、“微細化のその先”についても、これまで以上に活発な議論が行われるようだ。 - 負の磁気抵抗効果、非磁性の導電性物質で初観測
物質・材料研究機構(NIMS)を中心とした研究グループは、非磁性の導電性物質であるパラジウム−コバルト酸化物に、「負の磁気抵抗効果」があることを発見した。普遍的な現象であることも確認した。新たなセンサー素子などの開発につながる可能性が高い。