すでに夢の推定も、次世代AIとして研究進む“脳”:将来的には体の不自由な人の意思表示にも(3/3 ページ)
情報通信研究機構(NICT)は2016年4月、第4期中長期計画のスタートにおける3つの強化策の発表とともに、「脳をリバースエンジニアリングする」と題して、脳と研究成果の発表を行った。
「かわいい」「優しい」といった情報の解読も
さらに、西本氏は今まで挙げた研究成果の拡張として、「言語を用いた脳活動のモデル化を行っている」と語る。数人の人に同じ画像を見せて、そのシーンの中身を自由に記述させると、認知内容が主観的/客観的/コンテキスト依存など多様な結果となる。西本氏は「人の持つ全ての認知内容は原則的に脳神経活動を反映しているため、認知内容も脳活動のモデルに組み込むのに使えるはず」と語る。
そこで、現在開発を進めるのが「自然言語脳活動モデル」という。自然言語脳活動モデルでは、多人数による自然言語アノテーションを処理し、そのベクトル空間にマップする。ベクトル活動と脳神経活動を定量的にモデル化することで、言語を介した脳活動の説明モデルを構築する取り組みである。これにより、「かわいい」や「優しい」といった、主観的な情報も脳活動から解読できるようになったとする。同研究成果は、2015年8月にNICTとNTTデータ、テムズなどと共同で発表されている。
体の不自由な人の意思表示にも応用へ
自然言語脳活動モデルの実社会応用として展開されようとしているのが、テレビコマーシャル(以下、TVCM)の評価である。脳活動解読による知覚推定によって、TVCMの意図がしっかりと伝わっているかどうかを定量的に評価を行うのだ。
NICTのプレスリリースによると、2015年9月からトライアルバージョンの提供が開始されており、「2016年度から商用サービスとして提供予定」(西本氏)と語る。
西本氏は、実社会への応用として「NICTが研究開発を進める自動翻訳機に応用することで、より精度が良くなるだろう。将来的には、体の不自由な人でも脳で思い浮かべることによって、意思表示ができる技術ができると考えている」と語った。
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