世界初の試験運用を目指す韓国、冬季五輪が勝機に:ノキアの取り組みで探る5G最前線(1)(3/3 ページ)
研究開発が加速し、さまざまな実証実験が進む5G(第5世代移動通信)。目標とされる一部商用化の開始は、2020年――。あと5年もないのである。標準化はようやく開始されたが、それ以外では実際のところ、どこまで進んでいるのだろうか。本連載では、5G開発に取り組むノキアが、韓国、中国、欧州、米国、日本の各エリアにおける“5G開発の最前線”を探っていく。
韓国における5Gのシナリオ
韓国の産業界では、5G利用のシナリオは主に以下の3つがあるとされている。
- 高度なモバイルブロードバンド(一般には高いデータレートおよびキャパシティーが特徴)
- 大規模なマシン・タイプ・コミュニケーション(いわゆるIoT)
- 超高信頼性かつ低遅延の通信(クリティカル・マシン・タイプ・コミュニケーション)
韓国の通信事業者3社(SK Telecom、KT、LG U+)はいずれも、3つのシナリオ全ての試験を精力的に実施している。例えばSK Telecomは、2015年10月に同国内に5Gラボを開設し、256QAM(直交振幅変調)、8×8MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)送信、400MHz帯域幅を利用した5Gセンチメートル波テクノロジーにより、19.1Gbpsの無線伝送速度の実証に成功している。またKTは、2015年10月に業界初のeMTC(3GPP Release 13におけるLTE-M*))の実証試験を行った。
*)LTE-M:LTE MTC(Machine Type Communication)を指す。
同社のLTEネットワーク上で実施されたこの試験では、eMTCに利用された周波数帯域幅は20MHzのLTEシステム全体のうち1.4MHzのみであり、残りの周波数帯を通常のLTEトラフィックで利用できるようにすることで、既存のLTEネットワークとの共存とカバレッジの拡大を実現した。
LG U+も、LTE-Advanced Proおよび5Gの主要な技術要素の検証に積極的に取り組んでいる。2016年初旬には、TD-LTE-Advanced Proの3Dビームフォーミング(別名Massive MIMO)の実証を行った。垂直方向と水平方向のビームフォーミングを組み合わせることで、信号レベルを最大化すると同時にセル間の干渉を最小限に抑え、商用の基地局とデバイスを使用した屋外での実測値として、アップリンクで4倍、ダウンリンクで3倍のスループットを達成している。
以上のことから、韓国産業界では初期の5G技術要素とユースケースを検証する取り組みが今後も続き、来たる2018年冬季オリンピックの開催期間、多くの人々が5G試験サービスを待ち望んでいる状況にあると考えられている。
5GおよびIoTにおけるノキアと韓国産業界の協力体制
ノキアは2010年に韓国のLTE市場に参入して以来、韓国産業界の一員になるべく努めてきた。例えば、同国の通信標準化機関であるTTA(韓国情報通信技術協会)や、5Gフォーラムに参加している他、地域産業に貢献するためにさまざまな業界フォーラムや会議にも出席している。
さらに、5G、IoT、クラウドといった特に高度な技術分野において韓国産業界とより密接に協業するため、2015年後半には韓国にATC(Advanced Technology Center)を開設した。
これらの取り組みが認められ、ノキアは5G及びIoTの共同研究・協業について、同国の全通信事業者3社とMoU(了解覚書)を締結している。
ATCは、高度なテクノロジーを検証・実証するための研究施設として利用されるだけでなく、ノキアがPS-LTE(パブリックセーフティ向けLTE)の分野で、特に韓国のSME(中小企業)とオープンに協業するための場としても活用される。韓国では現在、KTとSK TelecomによってPS-LTEの試験が進められていて、ノキアとSamsung Electronicsが同国の多数のSMEと協力して試験に使用する製品やソリューションを提供している。
産業界では、5Gは無線インタフェーステクノロジーの発展形としてだけでなく、最終的に新たなビジネスモデルを実現する新しいネットワークアーキテクチャとして期待されている。この点について、ノキアは通信事業者と連携し、データが流れる「ユーザープレーン」と接続の制御を行う「コントロールプレーン」の分離によるネットワークのエンドツーエンド遅延低減や、5G無線アクセステクノロジーの新しいPoC(概念実証)システム構築等、新たなコア・ネットワーク・アーキテクチャの試験を行ってきた。また、5Gフォーラムのネットワーク分科会にも積極的に貢献している。
筆者プロフィール
ノキア(Nokia)
ノキアは、人とモノをつなぐ技術分野における世界的な企業。ベル研究所とNokia Technologiesのイノベーションを基盤として、つながる世界の中心的役割を果たす先進技術の開発とライセンス供与を推進している。あらゆる種類のネットワーク向けの最先端ソフトウェア、ハードウェア、サービスを提供しており、通信事業者、政府機関、大手企業などの5G、クラウド、IoT(モノのインターネット)の世界の実現に向けた支援を行っている。
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