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紙切れでもできる画期的な質量分析法を開発犯罪捜査に使われる質量分析がスマホでできるかも(2/2 ページ)

物質・材料研究機構(NIMS)は2016年7月、モバイル機器に実装可能な小型サイズで質量分析器を実現できる可能性がある新しい質量分析手法を開発したと発表した。

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シリコンデバイスでも確認

 髪の毛ほどの太さのシリコン製マイクロカンチレバー(MCL)を用いた実験は、常温、常圧下でさまざまな気体試料(ヘリウム、窒素、空気、アルゴン、二酸化炭素)を一定流量で吹きかけ、その際に生じる機械的な変形量が、特有の値となることを確認した。


A=MCLに対して下方向から気体試料を吹きかけた際の有限要素解析によるシミュレーション結果 / B=さまざまな気体試料の分子量とMCLのたわみの関係。灰色の破線で示す解析解と赤丸の実験値、青丸のシミュレーション値が良く一致している (クリックで拡大) 出典:NIMS

 さらに、流体力学、熱力学、構造力学を組み合わせることで気体の分子量とカンチレバーの変形量との関係を表す式を導き出すことにも成功した。研究グループは、こうした質量分析法を、「流体熱力学質量分析(Aero-thermo-dynamic Mass Analysis:AMA)と命名した。

 今回の実験では、MCLのわずかな変形量を測定するために特殊な顕微鏡を使用したが、「物理的な変化に応じて電気抵抗が変化するピエゾ抵抗などをMCLに組み込むことで、顕微鏡を使うことなく電気的に変化量を測定できる」(NIMS)とし、将来的にスマートフォンなどモバイル機器に搭載可能なレベルの小型質量分析デバイスの実現が期待できる。

窒素と空気の違いも分かる識別能力


MLCに対して空気、窒素および、空気と窒素の1対1混合気体を吹きかけた時のたわみを示す図。3者の分子量の違いはわずかだが、たわみの大きさは明確に違う 出典:NIMS

 開発した新手法の気体識別能力は、分子量の差が1g/molに満たない窒素(28.01g/mol)と空気(28.97g/mol)でも両者を明確に区別できるレベルにあるとする。

 また、新手法は気体試料を対象にした質量分析法だが、「液体試料でも気化することによってその分子量を決定することが可能」とし、実際にペンタン、ヘキサン、ヘプタンという室温で液体状態の3種類の分子を気化させ、分子量を算出できることを実証している。

液体も気化させれば大丈夫

 なお、イオン化を伴う従来の質量分析法では、同じ分子量で構造が異なる分子を見分けることができるが、新手法は分子量の情報のみしか得られず、構造を見分けることはできない。


出典:NIMS

 NIMSでは「新手法をモバイルデバイスへ実装すれば、個人レベルでも利用可能な質量分析器が実現し、それに伴う爆発的な需要と、従来用途にとどまらない多様な用途展開が期待される」としている。

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