「SEMICON West 2016」、半導体露光技術の進化を振り返る(完結編その1):福田昭のデバイス通信(84)(2/2 ページ)
今回は、半導体露光技術の歴史の完結編(その1)をお届けする。1996年ごろに本格的に導入され始めたKrFステッパーだが、既に2つの課題が浮上していた。光学系の開口数(N.A.)の向上の限界と、シリコンダイが大きくなり過ぎていたことだ。これらを解決する手段として登場したのが「スキャナー」である。
ステッパーからスキャナーへ
これら2つの問題を解決した露光装置技術が「スキャナー」である。スキャナーとは「ステップ・アンド・スキャン」の略称で、ステッパーが「ステップ・アンド・リピート」の略称であったことに対応する。スキャナーの基本思想はステッパーと同じ、縮小投影の分割露光である。違いはステッパーが正方形の領域を1回の光照射(ワンショット)で露光するのに対し、スキャナーでは細長いスリット状の領域を横方向に移動しながら(走査(スキャン)しながら)、光を照射して露光することにある。
スリットは屈折レンズの中央部だけを縦に光が通過する役目を果たす。このため、ステッパーに比べると、スキャナーではレンズの歪みの少ない領域だけを露光に使えることになる。また、丸いレンズの内接部を露光領域に使うステッパーに比べると、スキャナーではレンズの外接部を使うので、露光領域の大きさが同じでもスキャナーではレンズの口径が小さくて済む。この結果、レンズのN.A.を上げやすくなった。実際にはステッパーが露光領域22mm角に対して直径31.5mmのレンズを搭載したのに対し、スキャナーはスリットの長辺が26mmであるのに対して直径26.5mmのレンズを搭載しており、露光領域の拡大にもかかわらず、レンズを小型化している。
スキャナーのスリットの長さは26mmある。スリットを走査することで最大で26mm×33mmと極めて広大な領域を露光可能にした。ちなみに1996年のISSCCでSamsung Electronicsが発表した1GビットDRAMは、シリコンダイの寸法が31.26mm×20.86mm(652.1mm2)と異様に大きい。ステッパーの露光領域を完全にオーバーしていた。
ここで使われたのがスキャナーである。早くからスキャナーの開発に取り組んでいた、米国SVGLの「Micrascan II」を導入した。Samsungの学会発表資料(1995年12月開催のIEDM)によると、「Micrascan II」のN.A.は0.5である。光源の波長は248nmだが、光源が何かについては触れていない。なお別に入手した資料によると、同機の露光領域は22mm×32.5mmであり、Samusungが試作した1GビットDRAMのシリコンダイに比べてわずかに大きいだけであることが分かる。
ただしSVGLのスキャナーには問題があり、実際には普及しなかった。KrFスキャナーを普及させた露光装置メーカーはニコンとキヤノン、それからオランダのASMLである。2000〜2001年には、KrF露光機(新規導入機種)の主流はステッパーではなく、スキャナーへと移行していった。
KrFステッパーとKrFスキャナーのN.A.を過去にさかのぼって調べると、KrFステッパーのN.A.が0.45から改良されて0.65に至ったのに対し、KrFスキャナーのN.A.は0.60から改良されて0.82と向上しており、明確な差が見て取れる。解像度で大別すると、KrFステッパーが0.25μm世代から0.18μm世代をカバーし、KrFスキャナーが0.18μm世代から0.13μm世代をカバーした。こうして0.25μm世代で普及が始まったKrF露光装置は、3世代にわたって半導体チップの量産に使われることとなった。
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