「SEMICON West 2016」、7nm世代以降のリソグラフィ技術(ニコン編):福田昭のデバイス通信(86)(2/2 ページ)
90nm世代から商業化が始まったArF液浸スキャナーだが、3xnm世代に入ると、解像力は限界に達する。そこで、コスト増というデメリットは伴うものの、マルチパターニングによって解像力の向上が図られてきた。加えて、7nm世代向けのArF液浸スキャナーでは新しいリソグラフィ技術の導入も必要だとされている。この場合、コスト面ではダブルパターニングと電子ビーム直接描画の組み合わせが有利なようだ。
マルチパターニングと新たなリソグラフィ技術の組み合わせへ
露光技術(ソフトウェア)による解像度の向上は、露光回数を増やすマルチパターニング技術によって成し遂げられている。露光回数をn回とすると、ケイワンファクタ(K1)は原理的にはK1/nに減る。例えば、もともとのK1が0.30のリソグラフィにダブルパターニング(n=2)を導入すると、K1は0.15になる。先ほどのレイリーの式に当てはめると、解像力は22nmと大きく向上する。
もちろん、代償は存在する。ダブルパターニングを導入すると、スループットがガタ落ちになってしまう。スループットの低下は製造コストの上昇を意味する。コストの上昇を吸収可能な販売価格のシリコンダイであることが、ダブルパターニング採用の前提である。
コスト増だと分かりつつも、マルチパターニング技術は導入せざるを得ない。Renwick氏が示したスライドによると、10nm世代向けのArF液浸スキャナー「NSR-S630D」では、ダブルパターニング技術を駆使することによってフィン幅が10nm、フィンピッチが30nmのフィンFETを製造可能だとする。
しかし、7nm世代向けのArF液浸スキャナー「NSR-631E」になると、クオドパターニング(4回露光)技術の採用だけでなく、補完的に新しいリソグラフィ技術を導入していくことになると予測する。新しいリソグラフィ技術の候補は、「誘導自己組織化(DSA:Directed Self-Assembly)」「電子ビーム直接描画(Electron Beam Direct Writing)」「EUV(極端紫外線)リソグラフィ」の3つである。
電子ビーム直接描画とArF液浸の組み合わせがコストで有利
新しいリソグラフィ技術の導入によってコストはどのように変わるだろうか。ArF液浸のダブルパターニング、EUVリソグラフィ、電子ビーム直接描画を候補として比較してみせた。すると、ArF液浸のダブルパターニングと電子ビーム直接描画の組み合わせが最も低いという結果が出た。電子ビーム装置の減価償却費が加わっての計算だけに、この結果は興味深い。
リソグラフィ技術の組み合わせによるコストの違い。コストの内訳は、「Depr」が装置の減価償却費、「Other」がその他、「Floor」が床材(耐重量を上げるためのコストと思われる)、「Labor」が作業員の人件費、「Util」はユティリティ(電気料金など)、「Cons」は建築費用、「Chem」は化学薬品(レジストを含む)、「Mask」はマスク費用。内訳では装置の減価償却費が最も大きく、次がマスク費用であることが分かる(クリックで拡大) 出典:Nikon Research Corporation of Americaの講演スライドから
このほか講演では、20nm×10nmの長方形のパターンを例に、ArF液浸とEUVリソグラフィ、電子ビーム直接描画のそれぞれについてパターン形状の乱れを計算した結果を示していた。パターン形状の乱れはArF液浸が最も小さく、電子ビーム直接描画が最も大きかった。EUVリソグラフィと電子ビーム直接描画を現時点では補完技術と考えていることがうかがえた。
(次回に続く)
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