Intel方針転換の真意を探る:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(8)(2/2 ページ)
2016年、Intelはモバイル事業からの撤退を決めるなど方針転換を行った。そうした方針転換の真の狙いを、Thunderbolt用チップ、そして、7年前のTSMCとの戦略的提携から読み取ってみたい。
Thunderboltチップの製造者
しかし!! Thunderboltチップは3世代ともにTSMCのプロセスを使い製造されているのだ。Intelのロゴのある半導体パッケージの中身はTSMC製造だったのだ(図4)。
Intelにとってインタフェースチップは常に本丸であるIntel自社工場の製造対象ではなかった。PCのマザーボードが手元にあれば見ていただきたい。LAN端子、USBハブ、Super I/Oなど数多くのインタフェースチップには、台湾メーカーやシリコンバレーメーカーの名前が刻まれている。Thunderboltもそうした数あるインタフェース用チップの1つに過ぎなかったのだ。だからIntelは自らのファブで製造せずに当初からTSMCで製造し、さらには2015年、Apple MacBookで採用を見送られても、大きな“落胆”を味わった様子がなかったのである。
MacBookはThunderboltの有無にかかわらず、IntelのCoreプロセッサを採用しているからだ。Thunderboltは、実際にはIntelが開発したのではなく、上記のようなIntel系のインタフェースチップをそれまでも手掛けてきた台湾のインタフェースに強い半導体メーカーが担当したのかもしれない……と筆者は思っている。ただし仕様面などで大いにIntelやAppleの意向が入っているだろう。
IDMとしての価値の有無
2016年、Intelは多くの軌道修正を発表した。具体的にはAtomプロセッサの開発停止、モバイル向けSoCからの撤退、Thunderboltの減速などを発表した。図5に状況をまとめた。
モバイル向けのSoFIAプラットフォーム、ThunderboltはIntel以外のファブを用いる製品だ。Intelにとってこれらの製品が普及しても、自社ファブの稼働率が上がるわけではないので継続することではIDM(垂直統合型半導体メーカー)としての真の価値は生み出さない。
Intelは、自社ファブの稼働率を上げない製品/事業を中心に再編、つまり撤退の判断を行ったのではないだろうか。
ARMとの提携で見えてくること
2016年8月、Intelは、同年7月にソフトバンクに買収されることで合意したARMとファウンドリー事業に関して提携を行った。ARMコアはあらゆるファブで製造可能な設計用のデータにすぎない。設計データとファブが提携を行っても、売り上げには直結しない。しかし設計データを基に、10nmなり7nmの試作製品を作れば、実証実験が可能になり、その結果を多くのメーカーが注視することになる。その出来栄え次第では、TSMCやSamsungのユーザーをIntelファブに呼び込むことが可能になるはずだ(あくまでもコストと出来栄え次第であるが――)。
ARMは設計用のデータなので、ファブには依存しない。しかしファブ間の差を明確化することができるリトマス紙の役割も持っている。
半導体は、全く同じものを比較することの難しい産業である。似ているものの比較は容易だが、正確な“Apple to Apple比較”はなかなかできない。ARMを全てのファブが扱うことで、ファブ間の差は見えてくる。Intelの本格的なARMとの提携、そしてARMコア製造競争への参戦は、Intelの並々ならぬTSMCやSamsungへの宣戦布告と見えてくる。
Atomをやめ、モバイルを止めて、開発資源をファウンドリー戦線に集中する……。昨今のIntelの事業方針転換をこのように読み取ってみた。
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筆者Profile
清水洋治(しみず ひろはる)/技術コンサルタント
ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。
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