ARMがもたらした“老舗コンサバ、新興アグレッシブ”の現状:製品分解で探るアジアの新トレンド(9)(2/2 ページ)
ARMコアを使うことで、中国半導体メーカーも最新のCPUコアを用いたチップが作れるようになった。それは同時に、中国において、「老舗のメーカーは守りに入り、新興のメーカーに攻めに出る」という状況をもたらしている。
Amlogicの“インプリメント力”
2014年、「Android L」の名前でGoogleがリリースを開始した、64ビット化されたAndroidは2015年、瞬く間に市場に広まった。64ビット化を実現するためには、ARMの新CPUコア「Cortex-A5x」シリーズを用いるしかない(もしくはIntelのAtomやMIPS64)。今までの「Cortex-A15」「同A17」「同A7」「同A9」をアップグレードする必要が、全ての半導体メーカーに等しく訪れた。
先行するQualcommも、MediaTekも、OSの64ビット化に合わせ、2014〜2015年、ハイエンドからミドルハイ、ローエンド製品まで一斉に64ビット化、Cortex-A5xの切り替えを行っている。
QualcommやMediaTekはハイエンドばかりでなく、数量の多いミドルハイ、さらにはローエンドまでを同時期にリリースする。最も数量が多いのはミドルハイだ。ここではクアッドコアの「Cortex-A53」が使われることが多い。ハイエンドでは性能重視のCPUコア「Cortex-A57」や「同A72」が使われる。ローエンドはシングルコアなどと作り分けている。
Amlogicの「S905」はクアッドコアのCortex-A53だ。QualcommやMediaTekのミドルハイにおおよそ仕様が似たものになっている。QualcommではSoC(System on Chip)の「Snapdragon410」、MediaTekでは「MT6735」あたりが同じレンジに入ってくる。
これら3チップは偶然にも同じ28nmプロセスを用いて製造され、ほぼ同じ時期に市場にリリースされた。ただしAmlogicチップにはLTEモデム機能が含まれていない。また、搭載されるGPUもおのおの別物なので、同列比較はできないものになっている。
図3は、上記3チップのチップ開封を行い、配線層剥離を経て内部の構造が分かるようにして、CPU部分のみ着色し実際の面積を求めたものである。サイズは実際のチップサイズ比に合わせた。
同じCortex-A53のクアッドコアと、28nmプロセス(製造工場は若干異なる)を用いている。しかし、図3のように3社のCPUサイズは、大きく異なっている。
ARMコアを用いれば、電力、チップ面積、動作周波数がどれも同じになると思いがちだ。その感覚は広義では間違っていない。だが、インプリメント、つまり実装の仕方(用いるライブラリ、ターゲット周波数など)によって、面積や性能は異なってくる。この3チップの中で最も高い周波数を実現しているのはAmlogicの「S905」で、Qualcommの製品などに比べておおよそ1.5倍以上を達成している。しかもチップ面積は最も小さい。通常は、周波数が上がると面積は増える。電流を多く流すことで速度を上げるので、面積の大きい回路/パターンを用いるからだ。
面積は最小で周波数が最大。この数字だけを見れば、Amlogic社のインプリメント力が最も高いことになる。インプリメント力とは、「同じ素材を使って競合他社にない、高い価値を生み出す実装力」のことだ。
Qualcommなどはモバイル機器(スマートフォンなど)で利用するために、電源遮断など各種の仕組みをCPUの中に組み込んでいるはずだ。その差が面積に現れてしまうことは十分に理解できる。しかし電源遮断などの仕組みはせいぜいCPUの面積を数パーセント広げる程度である。AmlogicのCPUサイズの小ささは、やはりインプリメント力の高さの現れである。弊社ではチップ内部の部品レベル(STDセル)までくまなく調査した。
ARMコアを用いることで、中国でも最新CPUコアを用いたプロセッサを作れるようになった。以降、10年近い年月が過ぎている。当初はただARMを用いるだけであった中国メーカーも、今や最大限に工夫をこらし、先行するQualcommやMediaTekよりも、面積が小さく、かつ周波数の高いものを作れるようになっている。
このような事例を目の当たりにすると、「老舗コンサバ、新興アグレッシブ」と思わずつぶやかずにはいられない。
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