「なくす」をなくす、日本ゆえに生まれたIoTタグ:IoTデバイスの開発秘話(5)(3/3 ページ)
落し物を追跡するIoTタグ「MAMORIO」を知っているだろうか。MAMORIOとは、Bluetooth Low Energy対応のビーコンを活用するタグであり、紛失したくない物に取り付ける。スマートフォンとペアリングすることで、置き忘れ防止のアラートがスマホに通知されたり、紛失時には、どこに置き忘れたかを地図で表示できたりする。最大の特長は、日本発だからできる、ユーザー同士で協力して紛失物を探す機能といえるだろう。
目指すは「なくすを、なくす」
MAMORIOがミッションに掲げるのは、「なくすを、なくす」である。その取り組みはデバイスを販売するだけでなく、多岐にわたる。
例えば、au損害保険と協力して紛失まで補償範囲を拡大した盗難保険が付帯されるサービス「MAMORIOあんしんプラン」の提供を開始している。国内ではこれまで、盗難を補償する保険は存在していたが、紛失リスクに関しては、対象となる持ち物の詳細が確認できないなどの理由から、補償の提供が難しかったという。MAMORIOあんしんプランは、MAMORIOが保険契約者となり、購入日から5年以内の財布やカバンに対して、最大3万円補償する。利用料金は、デバイス1台につき、年間1000円(税別)だ。
他にも、スバルのインプレッサ購入特典として提供されたMAMORIOスマートキー(終了済)、働く女性のためのバッグブランドであるFUMIKODAとコラボレーションを行い、バッグに取り付けるMAMORIO内蔵のキーリング「PAOLA」を発表している。日本航空やテレビ朝日とは、機材管理の紛失防止における実証実験を行ったとする。
設置型のゲートウェイ端末「MAMORIOアンテナ」を組み合わせたサービスの展開も進んでいる。紛失物は、主要な公共交通機関や商業施設に集約される場合が多い。それらにMAMORIOアンテナを設置することで、同アンテナを通じて紛失物の位置情報を通知でき、早期の受け渡しが可能になる。2016年11月11日には、MAMORIOアンテナを東急線渋谷駅の忘れもの受付所に試験導入することを発表。同社は、東急線渋谷駅のように、交通機関や商業施設など各種遺失物センターへのMAMORIOアンテナ設置も進めていく。
今後は、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、MAMORIOが紛失物の早期発見プラットフォームになることを目指すという。これにより、「訪日外国人が落し物をしてもすぐに見つかる、戻ってくる、おもてなしの国を目指したい」(増木氏)と語る。そのために、さまざまな用途に活用できるようデバイスの形状を増やすこと、低消費電力化に加えて、企業との連携を加速させてユーザーの拡大を図る。
「創業のときから“なくすを、なくす”というビジョンは変わっていない。考えていることとしては、MAMORIOが生活の中で当たり前となる社会を目指したい。例えば、コンビニやスマートフォンは、存在しないときの生活が分からないほど浸透している。しかし、紛失物という観点では昔から何も変わっていない。MAMORIOが、それを変えるきっかけとなり、ないことが考えられないような存在となりたい」(増木氏)
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