改革は“新しい形のトップダウン”であるべきだ:“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(8)(1/5 ページ)
経営刷新計画により450人が去った湘南エレクトロニクス。だが、社内改革プロジェクトは始まったばかりだ。このプロジェクトのアドバイザーとして招かれたコンサルタントの杉谷は、須藤たちの改革は、現場発の“ボトムアップ”ではなく、むしろ“新しい形のトップダウン”であるべきだと説く。
「“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日」バックナンバー
これまでのお話
映像機器関連の開発、販売を手掛ける湘南エレクトロニクス(湘エレ)。ある朝、同社が社運をかけて開発した最新のデジタルビデオカメラについて顧客から1本のクレームが入る。そのクレームが引き金となって経営刷新計画が始まり、その一環として450人が希望退職した。湘エレの中堅エンジニア須藤は、会社を何とか変えようと、1人立ち上がる。そして、自分と同じ志を持っていると思われる“仲間”を集め、自社再建に向けてスタートを切ったのだった。
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第1回 | もはや我慢の限界だ! 追い詰められる開発部門 |
第2回 | 消えぬ“もやもや”、現場の本音はなぜ出ない? |
第3回 | 始まった負の連鎖 |
第4回 | たった1人の決意 |
第5回 | 会社を変えたい――思いを込めた1通のメール |
第6回 | エバ機不正の黒幕 |
第7回 | 450人が去った会社――改革の本番はむしろこれから |
プロジェクト始動
湘南エレクトロニクス(以下、湘エレ)の「経営刷新計画」の骨子に掲げられていた“給与カット”は、一般社員に関しては今年度末までということになったが、原則残業ゼロは継続したままだ。従って、無駄なことには一切の費用がかけられない緊縮財政は、いまだに全社的に強いられていた。
このような中で、退任の可能性が否定できない日比野社長は、他の役員や監査役などから反対があっただろうが、須藤たちへのせめてもの置き土産か、東京コンサルティング(以下、Tコンサル)への承認を取り付けてくれたのである(第8回参照)。
須藤のメールに賛同して集まったメンバーは、そのまま改革プロジェクトのメンバーとしてスタートを切ることとなった(図1参照)。プロジェクトメンバーの最初のミーティングの場面である。
PO(Project Owner)としては技術部の中村部長、PM(Project Manager)には本社企画部の佐伯課長、そしてPL(Project Leader)には須藤、また、事務局の役割は技術部庶務課の紅一点の神崎が担うことになった。もっとも、須藤からすれば、PO、PM、PLなどの体裁はさほど重要でもない。それよりも、メンバーが、全部門から均等に参加しているわけではないことの方が気掛かりだった。部門によっては、部長や課長といった管理職もいない。プロジェクトのメンバーが偏っていると言われればその通りで、須藤の味方ばかりだ。須藤を目の敵にしている直属の上司である森田課長、営業部の山口課長はプロジェクトメンバーに入っていない。
このように、一般的な社内プロジェクトのメンバーアサイメントと大きく異なる編成になっているが、これは、Tコンサルのアドバイスによるものだ。「一様にプロジェクトの風呂敷を広げるよりも、まずは志の高いメンバーだけでコアをしっかりと固める。次に、問題意識が極端に高い、変革のエネルギーを持っているなどの人材を見つけたら、どんどん仲間に入れていく。ゲリラ的に拡散していく方が望ましい」という。さらに「組織的に動いたり、部門として何かを依頼したりするときは中村部長の出番で、上から筋を通す」ということらしい。
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