大阪大学、パワー半導体の3D配線が低コストに:銀粒子の焼結メカニズムを解明
大阪大学の菅沼克昭教授らは、独自に開発した銀粒子焼結技術を用い、次世代パワー半導体の3D配線を低コストで実現するための技術を開発した。
SiC/GaNパワー半導体の実用化に弾み
大阪大学産業科学研究所の菅沼克昭教授らによる研究グループは2017年1月、独自に開発した銀粒子焼結の技術を用い、次世代パワー半導体の3D配線を低コストで実現するための技術を開発したと発表した。
銀粒子焼結技術は、菅沼研究室が1983年に開発した、粉末を接合層とする異種材料接合技術である。銀粒子を用い、大気中において250℃の低温で接合できるという特長がある。このため、次世代パワー半導体の実装技術として注目され、欧州では実用化が始まっているという。ところが、融点(銀は962℃)より極めて低い温度で、銀粒子焼結が形成されるというメカニズムはこれまで明らかになっていなかった。
研究グループは今回、200℃程度で大気中の酸素と反応しながら、Ag-O液体噴火することで金属焼結が進むことを明らかにし、そのメカニズムが「ナノ噴火現象」であることを突き止めた。この現象は銀特有で、金や銅などほかの金属では不可能だという。
研究では、基板に実装されたSiC(炭化ケイ素)ダイの表面に、凹凸に応じた3D配線を印刷技術で形成し、大気中無加圧の雰囲気において250℃で焼成した。そうしたところ5×10-6Ωcmという低い抵抗値となった。
従来のワイヤーボンディングやリボンボンディングによる配線方法に比べて、新技術を用いると低温焼成で製造コストも安く、低ノイズ、低抵抗の3D配線が可能になるという。研究グループは、今回の研究成果によってSiC、GaN(窒化ガリウム)パワー半導体の高性能化と低コスト化を同時に実現でき、搭載した電力変換器のさらなる小型化や省エネ化につながるとみている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 脳波の状態から自動で作曲を行うAI、大阪大学など
大阪大学の沼尾正行氏らの研究チームは、楽曲に対する脳の反応に基づき自動で作曲を行う人工知能の開発に成功した。音楽で手軽に脳の活性化に結びつけることが期待される。 - SiCパワー半導体が300℃でも動作する基板構造
昭和電工と大阪大学の菅沼克昭氏が推進するプロジェクトは2016年7月19日、SiC(炭化ケイ素)パワー半導体が300℃の高温域においても安定的に動作する基板構造を開発したと発表した。 - パッチ式脳波センサー、脳の状態を簡便に測定
大阪大学産業科学研究所の関谷研究室を中心とする医脳理工連携プロジェクトチームは2016年8月、手のひらサイズの「パッチ式脳波センサー」を開発した。冷却シートを額に貼る感覚で容易に装着でき、脳の状態をリアルタイムに可視化することができるという。 - LEDより高性能? 高輝度/小型の3原色レーザー光源
大阪大学と島津製作所は、高輝度と小型の3原色レーザー光源モジュールを開発したと発表した。国内セットメーカー9社に同モジュールを配布して検証したところ、LEDと比較して小型化/省エネ性能/色再現性の優位性を実証できたという。実用化に向けて産学連携組織がガイドラインも策定した。 - 新磁石を発見、ディラック電子の流れを制御
大阪大学大学院理学研究科の酒井英明氏らは、質量がないディラック電子の流れを制御できる新しい磁石(磁性体)を発見した。ハードディスクのヘッドや磁気抵抗メモリなど、超高速スピントロニクス素子を用いた次世代の磁気デバイスへの応用が期待される。 - シリコン産廃を燃料電池の水素供給源にする技術
大阪大学産業科学研究所の小林研究室は、「スマートエネルギーWeek2016」で、シリコン(Si)産業廃棄物を原材料として作製したナノ粒子を用い、大量の水素を効率よく発生させることができるプロセスのデモ展示を行った。燃料電池への水素供給源として利用できる。