8K映像を分割、複数回線で遠隔配信に成功:雪まつりと大阪の2会場を結ぶ
情報通信研究機構(NICT)は、109Gビット/秒の8K非圧縮映像と音響環境を分割し、複数回線を使って遠隔配信する実証実験に成功した。大容量の回線が整備されていない環境においても、8Kライブ映像配信が可能となる。
既存の通信環境でも、8Kライブ映像配信を可能に
情報通信研究機構(NICT)総合テストベッド研究開発推進センターは2017年2月、109Gビット/秒の8K非圧縮映像と音響環境の分割遠隔配信に成功したと発表した。今回の技術を用いることで、大容量の回線が整備されていない通信環境においても、8K映像データの配信が可能となる。
今回の映像配信実証実験では、2017年2月6日より開催されている「さっぽろ雪まつり」会場で撮影した8K映像とハイレゾ音声を、大阪の会場に送り復元して表示した。実証実験には、産官学関係組織48団体が参画している。大阪会場にはシャープ製85型8Kディスプレイが設置され、伝送された実験映像を表示した。
実験では、複数台の8Kカメラを組み合わせて、広視野角の8K映像(109Gビット/秒)を、雪まつり会場で撮影した。ところが、実験に用いる回線の伝送容量は1回線当たり最大100Gビット/秒であり、このままでは映像データを非圧縮で配信することは不可能である。
そこで、109Gビット/秒の8K非圧縮映像をリアルタイムに分割した上で、複数の100Gビット/秒回線を用いてそれぞれ伝送した。分割して伝送される映像データは、使用する回線によって伝送距離や遅延時間が異なる。このため、再生場所となる大阪会場では、送られてきた映像データを同期させ、1つの映像ストリームに再構成した。
同時に、立体音響を再現するため、映像と同期してハイレゾ音声を収録(192kHzサンプリング、24ビット、16チャンネル)して伝送した。この立体音響データを大阪会場に設置した立体音響再生環境を用いて再生し、配信された映像と合わせて復元した。こうした超広帯域配信は、ネットワーク側の遅延調整機能も併用することで実現したという。
今回の実証実験では、NICTが2011年4月から運用しているネットワークテストベッド「JGN」と、同じく2002年より運用している、多数のPCサーバを用いてソフトウェアやハードウェアを検証するためのテストベッド環境「StarBED」を活用した。これらのテストベッドを用い、映像のライブ配信と同時に、高い臨場感を得るための収録や再生も行った。
さらに、JGN上で運用しているネットワーク仮想化技術と、国立情報学研究所(NII)が構築、運用している情報通信ネットワーク「SINET5」上で提供されるサービス「L2オンデマンドサービス」の2つを組み合わせて利用した。これにより、途中の中継回路をきめ細かく設定することが可能となり、遅延時間を調整することができるという。
今回の実証実験で、100Gビット/秒を上回るライブ映像を、分割、同期再生する技術を確立した。この技術を応用することで、帯域が制約される既存の通信環境においても、複数の回線を利用することで、より高画質のライブ映像の配信が行えることを確認した。
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