室温で発光、円偏光スピンLEDの試作に成功:中間層に結晶性アルミナを採用
東京工業大学の西沢望特任助教らは、室温で発光する円偏光スピンLEDの試作に成功した。ガン細胞の検出や暗号通信などへの応用が期待される。
ガン細胞の検出や暗号通信などへの応用に期待
東京工業大学科学技術創成研究院未来産業技術研究所の西沢望特任助教、宗片比呂夫教授らは2017年2月、室温で発光する円偏光スピンLEDの試作に初めて成功したと発表した。将来は円偏光を利用して、ガン細胞の検出や暗号通信などが可能になるとみられている。
円偏光は、光の波の振動面(偏光面)が、右または左方向に回転しながら進むらせん状の光で、合成化学産業の分野などで活用されているという。ところが、分光器やフィルターなどを利用したこれまでの作製方法だと、光源とフィルターを高い精度で位置合わせする必要があることや、円偏光の回転向きを切り替える速度が遅いなど、いくつかの課題もあった。
宗片研究室では今回、独自開発した「結晶性アルミナ中間層」を用いてLEDを試作した。これにより、これまで大電流を流した時に課題となっていた、半導体と磁性体金属の接合面における化学変化を抑えこむことに成功した。この技術を用いて試作したスピンLEDは、小さい電流を流している時は、偏光のない自然光に近い発光となる。ところが、電流を大きくして発光強度を上げると円偏光の純度が上昇して、室温でも純粋な円偏光を発することが分かった。このことから研究グループでは、ダイオード中で発生した強い発光自体に、円偏光を増幅する効果があると推定している。
研究グループは今後、結晶性アルミナ中間層の品質向上と円偏光を発する小型レーザーの開発に取り組む方針だ。結晶性アルミナ中間層は現状だと、大電流を通電した状態で耐久性が1週間程度にとどまっている。実用化に向けてこれを向上させていく。これらの研究を続けていく中で、今回判明した「円偏光が増幅する原理」も解き明かしていく考えである。
今回の研究成果をベースに、半導体素子の小型化や集積化が進めば、新光源としての新たな用途が期待できるという。その一例として研究グループは、内視鏡に組み込んでガン細胞を検出することや、特殊な暗号通信の伝送光としての応用などを挙げた。
なお、研究成果の詳細については、2017年2月8日に米国科学アカデミー紀要(PNAS)でオンライン掲載された。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 東工大ら、パワーデバイス内部の電界を直接計測
東京工業大学の岩崎孝之助教らによる研究グループは、新たな電界センサーを開発し、パワーデバイス内部の電界を直接計測することに成功した。 - 有機ELの電子注入層と輸送層に向けた新物質
東京工業大学の細野秀雄教授らは、有機ELディスプレイの電子注入層と輸送層に用いる透明酸化物半導体を開発した。新物質は従来の材料に比べて、同等の仕事関数と3桁以上も大きい移動度を持つ。 - n型強磁性半導体を作製、伝導帯にスピン分裂
東京大学のレ デゥック アイン助教らは、強磁性半導体において大きなスピン分裂をもつ電子のエネルギー状態を初めて観測した。スピン自由度を用いた次世代半導体デバイスの実現に大きく近づいた。 - 東工大、微細化でIGBTのオン抵抗を半減
東京工業大学は、微細加工技術によりシリコンパワートランジスタの性能を向上させることに成功したと発表した。従来に比べオン抵抗を約50%低減できることを実証した。 - 希少元素を使わない赤く光る窒化物半導体を発見
東京工業大学と京都大学の共同研究チームは2016年6月、希少元素を使わずに、赤色発光デバイスや太陽電池に応用できる新たな窒化物半導体を発見、合成したと発表した。 - 高周波圧電共振器の課題を解決する回路
東京工業大学と情報通信研究機構(NICT)は2016年6月15日、シリコン上に集積できる高周波圧電共振器による位相同期回路(PLL)を、無線モジュールの水晶発振器を置き換え可能な性能で実現する技術を開発したと発表した。