GFが中国に工場建設、痛手を負うのは?:成都に100億ドル規模を投資(2/2 ページ)
GLOBALFOUNDRIES(GF)が中国の成都に工場を建設する。巨額の資金を投じて半導体産業の強化を進める中国にとって、これは朗報だろう。では、痛手を被る可能性があるのは誰なのか。
技術や人材の流出に直面するのは誰なのか
では、GLOBALFOUNDRIESの成都工場建設によって何かを失う可能性があるのは、どの企業なのだろうか。
中国の政府当局は、「困難に直面するのは、TSMCだ。技術的な損失だけでなく、人材損失を被る恐れもある」と指摘する。
しかしTSMCは、GLOBALFOUNDRIESの成都工場建設そのものとは直接関係がない。中国政府当局は、「GLOBALFOUNDRIESの成都工場をはじめとするさまざまな当事者企業によって、中国での工場建設が増加することにより、TSMCは確実にダメージを受けるだろう」と述べる。
米国シリコンバレーの情報筋によると、中国政府当局は、「単純な計算をすれば分かる」と主張しているようだ。
中国はこれまで、半導体製造分野に1000億米ドルを優に超える資金を投じてきた。
上図には、Tsinghua Unigroupが2017年1月に発表した、300億米ドルを投じて南京にメモリチップ工場を建設する案件と、今回のGLOBALFOUNDRIESが100億米ドルを投じる成都工場の案件が含まれていない。
通常、新工場の設立といえば、どの企業がどれくらいの資金を投じて建設し、設備を整えるのかという面ばかりが取り上げられる傾向にある。しかし、実際にICを製造する経験に乏しい中国にとって、必要な技術者を引き抜くためには、どれくらいのコストが掛かるのだろうか。
情報筋によると、「中国は、突然数多くの工場が次々と建設されるようになったため、プロセス技術や歩留まり、不具合、ライン管理などのさまざまな分野に精通した製造技術者を集める必要に迫られている。人材関連のコストがTSMCと同程度だとすると、中国には、TSMCの全社員の約3倍の人材が必要になる見込みだ」という。
現在、TSMCのハードコア技術者および製造技術者数は、1000人に満たない程度だ。また同社は、IP(Intellectrual Property)分野で強みを発揮し、過去5年以上にわたり競争上の優位性を維持してきた。しかし、もしTSMCが自社の技術人材を失うことになるとしたら、一体どうなるだろうか。
人材を1人雇用するのに、インセンティブやボーナスも含めて100万米ドルが掛かると仮定しよう。すると、TSMCのハードコア技術者および製造技術者である1000人を雇用するには10億米ドルの費用が掛かることになる。だが、これは「たったの10億米ドルだ」と情報筋は話す。より大きな視点で考えてみれば、10億米ドルというのは、中国が製造業に投資する予定の金額のわずか1%にすぎないのだ。
China Postは2017年1月25日(台湾時間)、TSMCのチェアマンであるMorris Chang氏は、中国への人材流出を止められなかったとして、台湾の行政院長であるLin Chuan氏を非難したと報じた。
1つ明らかなのは、TSMCには、流出する可能性のある人材や技術を多く保有しているということだ。TSMCは、中国が1000億米ドルを投資する半導体産業強化施策の中で、うまく立ち回る術を見いだす必要があるだろう。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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