中国スマホの進化で消えゆく日本の“スイートスポット”:製品分解で探るアジアの新トレンド(14)(3/3 ページ)
中国のスマートフォン市場では相変わらず新興メーカーの台頭が目立っている。そうした若いメーカーが開発するスマートフォンを分解すると、アプリケーションプロセッサなどのプラットフォーム以外の場所でも、中国半導体メーカーの浸透が始まっていることが明らかになった。
10コア3階層のモンスターチップ
図4は、MediaTekのhelio X20プラットフォームのプロセッサチップ「MT6797」のチップ開封の様子とスペックの一部を掲載したものである。CPU、GPU、モデムをTSMCの20nmプロセスで1チップ化したものである。QualcommやSamsung、HiSiliconにはない10コア3階層のCPU構造を持つチップである。CPUを3階層化することで高速、中速、低速の3段階でプロセッシング性能と電力を最適化した。
車のトランスミッションと同様に考えてみてほしい。他社のCPUは最大2段階で、高速、低速だけであった。MediaTekはそこに中速を加えることで、性能と電力の最適化をよりしやすくするという構造を、helio X20で採用したのである。MediaTekはその後、16nmプロセスの「helio P20」もリリースし、ラインアップを拡充させている。2017年には先述したhelio X30の量産出荷が始まる予定だ。
欧米、日本よりも中国
こうしたハイエンドチップが、中国の新興スマートフォンメーカーに続々と採用されている。同時に、LEDドライバーICやDC-DCコンバーターICなど電源系のICも、中国製が採用されていく。その結果、欧米や日本の電源ICやドライバーICのメーカーがそこから外されていく。
プラットフォームはQualcomm、MediaTek、HiSiliconら力のあるメーカーにしか作れない。しかし、プラットフォーム外にあるIC群は日本メーカーにとって、この数年はスマートフォン特需を生み出すスイートな場所であった。しかしICや部品も徐々に中国メーカーが浸透し始めている。
VerneeやLeTV、HOMTOMらの動きは注視せねばならないだろう。またHuawei、OPPO、VIVOらも同様に注目製品を次々にと生み出してくる。しかも年に数機種というハイペースで新製品を世に送り出しているのだ。かつて日本の端末メーカーのペースが最も速かったときでさえ、新製品を発表する頻度は、夏モデル、冬モデルと年2回だった。
2016年2月に生まれたばかりのVerneeは、わずか1年後のMWC 2017で一気に5機種も展示した。これは、中国スマートフォンの開発速度が、かつてないほど速くなっていることの証であろう。
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