Nintendo Switchのチップ解剖から考えるデグレード版Tegra X1を選んだ理由:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(14)(3/3 ページ)
今回は、任天堂の歴代ゲーム機の搭載チップを簡単に振り返りつつ、2017年3月発売の新型ゲーム機「Nintendo Switch」の搭載チップについて考察する。発売前「カスタマイズされたTegraプロセッサ」とアナウンスされたプロセッサの内部は、意外にも「Tegra X1」の“デグレート版”だった……。
なぜ、デグレードのなのか
歴代ゼロスクラッチからプロセッサチップを作り、半導体開発からゲーム機を作り上げた任天堂の姿はない。中国Allwinner Technologyのプロセッサ「R16」をそのまま使って作り上げたクラシックミニファミコン(本連載第11回参照)、NVIDIAの汎用プロセッサ「Tegra X1」をデグレードさせて使ったNintendo Switch。これらは、なぜこのような手法で作られたのだろうか。
ゲーム機市場がスマホによって縮小したからか? 岩田さん(=故岩田聡元任天堂社長)を失ったことで任天堂の方針が変わったからなのか? あるいは専用チップをわざわざ作らなくとも市販チップでも十分な性能を作り上げられるほどに市販チップの性能が高いからなのか……。そして、それが最もローコストで速く作れるからなのか。真相は分からない。しかし、開発は最も速い時間で完結することだけは確かだ。市販チップのデグレード品を利用するのが最も速いのである。
ドイツで開発した意味合い
ドイツと言えばNVIDIAのTegraとは最も結びつきの強い国の1つである。車向けのTegraではAudiがすでに採用し、2017年に入ってZFやメルセデスもNVIDIAとの提携を発表している。任天堂とは直接関係はないが、自動運転システムやAI(人工知能)にも活用されるNVIDIAチップは強力なソフトウェア開発を必要とする。
NVIDIAは2012年にドイツのユーリヒ総合研究機構に同社GPUが採用され、さまざまな科学解明に活用されていることを発表している。膨大なソフトウェア開発者を必要とするのはゲーム機も同じ。無関係とは言えないかもしれない。
⇒「この10年で起こったこと、次の10年で起こること」連載バックナンバーは、こちら
筆者Profile
清水洋治(しみず ひろはる)/技術コンサルタント
ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 初代ファミコンとクラシックミニのチップ解剖で見えた“半導体の1/3世紀”
家庭用テレビゲーム機「任天堂ファミリーコンピュータ」の発売からおおよそ“1/3世紀”を経た2016年11月にその復刻版といえる「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」が発売された。今回は、この2つの“ファミコン”をチップまで分解して、1/3世紀という時を経て、半導体はどう変わったのかを見ていく。 - 成熟Bluetoothチップ市場に吹く新風
世界の至るところで使われるようになった無線技術「Bluetooth」。機器分解を手掛ける筆者も週に2機種のペースでBluetooth搭載機器を分解している。そうした機器解剖を通じて見えてきたBluetoothチップ業界の意外な最新トレンドを紹介しよう。 - 「ムーアの法則」を超えた進化
Intelをはじめとした半導体メーカーは「ムーアの法則」に従うように、ほぼ2年に1度のペースで新たな微細プロセステクノロジーを導入し進化を続けてきた。しかし、近年は少しその様子が変わりつつある。特に台頭著しい新興メーカーは、独自のペースで進化を遂げてきている。 - 「Nintendo Switch」を分解
モバイル機器の修理マニュアルを提供するiFixitが、2017年3月3日に発売されたばかりの「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」を早速分解した。 - 「プレステ4」を分解
「プレイステーション3」から、7年を経て発売が開始されたソニーの最新ゲーム機「プレイステーション4」。カナダのChipworksが、さっそく分解に着手した。 - デジタル化の中で浮沈を決めた“半導体設計の本質”
デジタル家電市場で、なぜ台湾のMediaTekは、日本や欧州の名だたる競合半導体メーカーを蹴散らせたのか――。今回も、この10年で大きな成長を遂げた台湾MediaTekの強さに迫る。