薄膜にTFTを印刷、安価なディスプレイが実現か:使い捨てできるほど安くなる?
アイルランドの研究機関が、標準的な印刷プロセスを使って、薄膜にTFT(薄膜トランジスタ)を印刷する技術を開発したと発表した。グラフェンや金属カルコゲナイドなどの2次元物質を用いたもので、実用化されれば、使い捨てにできるほど安価なディスプレイを製造できる可能性がある。
ディスプレイのコストを大幅に削減可能か
ディスプレイメーカーは、モニターやTV、スマートフォンディスプレイなどのコスト削減を目指して、TFT(薄膜トランジスタ)を製造する手法の開発に取り組んでいる。こうした中、アイルランドの研究チームは、薄膜材料上にトランジスタを形成する印刷プロセスを発表した。同技術が実用化されれば、使い捨てにできるくらいにディスプレイの価格を下げることができるという。
例えば、ヨーグルトなどの生鮮食品のパッケージに、賞味期限までの日数をカウントダウン方式で表示するような用途が考えられる。この他にも、白ワインが最適な飲み頃温度であることをラベルに表示したり、コンビニエンスストアで朝食用に買った食品のパッケージに、バスや配車サービスの到着時刻を表示したりといった使い方もできる。
この新しい薄膜トランジスタを開発したのは、アイルランド科学財団(SFI:Science Foundation Ireland)が資金を提供して設立された、材料科学の研究組織「Advanced Materials and BioEngineering Research(AMBER)」である。
AMBERの研究チームは、「標準的な印刷プロセスを適用した、トランジスタの印刷技術である」と説明する。AMBERは、同様のプロセスを適用して太陽電池を作製できることも確信しているようだ。
このトランジスタは、グラフェンのソースとドレイン、ゲート電極、遷移金属ジカルコゲナイドチャンネル、窒化ホウ素セパレーターを積層している。同論文の概略は、Science誌(2017年4月7日発行号)に掲載されている。
AMBERが使用しているのは、二セレン化タングステン(WSe2)というカルコゲナイドの1種で、電荷キャリア移動度が高いことから同物質を選択したという。
このトランジスタは、イオン液体を用いた電界ゲートを利用している。この電界ゲートは、同等の有機TFTよりも高い動作電流を実現できるという。電界ゲートは最近、酸化物薄膜として採用されるようになったばかりだ(セレンは、酸素族元素としても知られるカルコゲン元素の1つである)。
AMBERがプリンテッドTFTデバイスのために選んだ材料は、他のTFT材料と比べて、低い駆動電圧で高い電流伝導率を実現できるとする。
TFTベースのディスプレイは、AMBERが目指す低価格を実現できれば、たくさんの用途に応用できる可能性を秘めている。AMBERは一例として、パスポートや紙幣の他、食品や薬のラベルなどを挙げた。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
印刷によるセンサー付き電子タグ 商用化へ前進
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2016年1月25日、商用ICカード規格のスピードで動作する有機半導体を用いた温度センシング回路を開発したと発表した。印刷/塗布だけで製造できる回路であり、温度管理が必要な食品などに用いる温度センサー付き電子タグを低コストで製造できる。多層印刷によるTFT素子への適用事例も初公開
DICは、「第26回 ファインテック ジャパン」で、各種印刷システムに適合するプリンテッドエレクトロニクス用インクを紹介した。TFT素子への適用事例も初めて会場で公開した。「日本発」のプリンテッドエレで世界を狙うAgIC
インクジェット印刷による電子回路開発を行う東大発ベンチャーAgICは、面ヒーター「PRI-THERMO」(プリサーモ)の一般販売を開始した。2016年2月には、接着剤メーカーのセメダインからの資金調達を発表するなど活発な動きを見せる同社。しかし、2014年1月に会社を設立した当初の計画とは違う流れとなっている。同社社長の清水信哉氏にインタビューを行った。4人の研究から始まった山形大発プリンテッドエレ
山形大学有機エレクトロニクス研究センター(ROEL)の時任静士教授と熊木大介准教授らは2016年5月、プリンテッドエレクトロニクスの研究開発成果を事業展開するベンチャー「フューチャーインク」を設立した。時任氏と熊木氏に、今までの研究内容や今後の事業展開について話を聞いた。FinFETの父、「半導体業界は次の100年も続く」
“FinFETの父”と呼ばれる研究者のChenming Hu氏は、Synopsysのユーザー向けイベントで、「半導体業界が次の100年も続くと確信している」と述べ、業界の未来が決して暗いものではないと主張した。同氏は新しいトランジスタのアイデアとして、NC-FET(負性容量トランジスタ)についても言及した。ゲート長1nmのトランジスタ、CNT活用で米が開発
米国のローレンスバークレー国立研究所が、カーボンナノチューブ(CNT)をゲートに用いて、ゲート長がわずか1nmのトランジスタを開発した。