ニオイでアルコール度数を推定、健康状態も確認:小型センサーと機械学習を融合
物質・材料研究機構(NIMS)の柴弘太研究員らは、酒のニオイ成分からアルコール度数を推定することに成功した。極めて感度が高い膜型表面応力センサー素子(MSS)と機能性感応材料および、機械学習を組み合わせることで実現した。
ニオイ成分からさまざまな情報の数値化を可能に
物質・材料研究機構(NIMS)の柴弘太研究員らは2017年6月、酒のニオイ成分からアルコール度数を推定することに成功したと発表した。極めて感度が高い膜型表面応力センサー素子(MSS:Membrane-type Surface stress Sensor)と機能性感応材料および、機械学習を組み合わせることで実現した。ニオイ成分から健康状態や果実の成熟度などを数値化することも可能となる。
今回の研究は、NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)ナノメカニカルセンサーグループの柴氏や吉川元起グループリーダーの他、WPI-MANA量子物性シミュレーショングループの田村亮研究員、若手国際研究センター(ICYS)の今村岳ICYS-NAMIKI研究員らが行った。
研究チームは今回、高感度で小型、低コストのモバイル嗅覚センサーを可能とする「MSS」と、ニオイを構成するさまざまな成分を検出するための「機能性感応材料」、そして的確な判断や予測を行うための「機械学習」という、3つの要素技術を組み合わせた。これによって、ニオイ成分から酒のアルコール度数など、特定の情報を数値化する新たな手法を開発した。
開発したセンサー素子は、構造を最適化することで従来同等品に比べて100倍を上回る感度を実現している。実験ではこのMSSを4個並列化して測定に用いた。MSS上には、独自開発の感応材料を塗布した。この感応材料には、表面特性を制御できる4種類の無機酸化物系ナノ粒子を用いている。
実験では、アルコール度数の異なる32種類の液体試料を用意した。これらのニオイ成分をMSSで順次測定し、その応答パターン(ニオイの電気信号パターン)を検出した。応答パターンから傾きやピーク値によって4つの特徴を定義し、これとアルコール度数を対応させたデータセットを用意した。
作製したデータセットをトレーニングデータとし、カーネル関数を利用した回帰分析「カーネルリッジ回帰」と呼ばれる機械学習の手法を用いて、応答パターンからアルコール度数を推定するための予測モデルを構築。抽出する特徴量の最適化なども行い、予測精度を向上させたという。
ニオイの分子を吸着させる感応材料についても、予測モデルを構築して検証した。この結果から、水に反応しにくいナノ粒子材料を用いた方が、アルコール度数の推定において、高い精度を得られることが分かった。さらに、アルコール度数と応答パターンの相関関係も確認した。この結果、アルコール度数が同じでも、エタノール以外のニオイ分子が影響し、応答パターンはかなり異なり、単純な相関があるわけではないことが分かった。
研究チームは今後、ニオイによる食品の成熟度や鮮度の判断、呼気による疾病の診断、環境モニタリングなど、さまざまな用途への応用を検証していく予定である。
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