「AIへの過度な期待を懸念」、専門家らが議論:人工知能には“苦手分野”もある
コンピュータサイエンス分野の団体が開催したイベントのパネルディスカッションにおいて、AI(人工知能)の専門家たちは、「ビッグデータやディープラーニングが、人類のあらゆる問題を解決するという見方が、強調され過ぎてはいないか」という懸念を示した。
ハイプサイクルのピーク期に?
教育およびコンピュータサイエンス分野の団体である米ACMが開催する「Alan Turing Award」の50周年記念イベントに、パネリストとして参加した専門家らによると、ニューラルネットワークは、ハイプサイクルのピーク期(参考:ガートナー)に達したようだ。同技術は将来的に幅広い利用が見込まれ、大きな可能性を秘めているもの、まだ黎明(れいめい)期である上に、限界も存在するという。
パネリストの多くは、“人工知能(AI)”はニューラルネットワークの「誤った呼び名」であり、ニューラルネットワークは、まだ人間の論理的思考や理解の基本的な型に対応していないと指摘した。ニューラルネットワークはむしろ、AIを実現するまでの長い旅路に携えるツールと見なされるべきものだという。
「機械はいつか知能面で人間を超える」というTuring氏のビジョンを踏まえると、ディープラーニング(深層学習)をめぐる議論は妥当なトピックだったといえよう。
米国カリフォルニア大学バークレー校のコンピュータサイエンス学部の教授で、AI研究者でもあるStuart Russell氏は「Turing氏は、ゆくゆくはAIが人間の知能を超えること、そして、それが人間対機械のレースの結末になるであろうことを予測していた」と述べた。Russell氏は現在、AI分野の教科書の新版を執筆中だという。
Russell氏は、ニューラルネットワークは、囲碁の世界的なプレイヤーを打ち負かしたGoogleのシステム「AlphaGo」の構成要素の1つであることに言及した。
Russell氏は「AlphaGoは古典的なシステムだ。ディープラーニングは同システムの2つの部分を形成しているが、囲碁のルールを学習するには、表現学習を使うことが適していると分かった。エンド・ツー・エンドのディープラーニングシステムが、次の手を解読できるようになるには、過去の数百万回もの囲碁の試合のデータが必要になる。同様の実験はバックギャモンやチェスでも試されたが、うまくいかなかった」と述べた。その上で、一部の課題には、信じられないほど膨大なデータセットが必要であると指摘した。
Russell氏は現在のニューラルネットワークについて、「ソート(分類)機能の面ではブレイクスルーであり、1980年代からの目標は叶ったといっていい。だが、ニューラルネットワークにはプログラミング言語の表現力が不十分である上に、データベースシステムやロジックプログラミング、知識システムを使いやすくする宣言的意味論にも欠けている」と分析した。
人間は問題を事前に理解して気付くことができるが、現在のニューラルネットワークにはそのような機智は備わっていない。Russell氏は「ディープラーニングシステムが、大型ハドロン衝突型加速器の生データからヒッグス粒子を発見するということは絶対にない。ビッグデータやディープラーニングが、人類のあらゆる問題を解決するという見方が、強調され過ぎてはいないかと懸念している」と述べた。
誤認識を許容できないという“弱点”
ニューラルネットワークには限界も存在すると冒頭で述べたが、その1つが自動運転や画像認識での活用だ。
カナダのトロント大学で機械学習を教えるRaquel Urtasun氏は、「自動運転車の研究に携わっているが、これらのシステムは、まず堅ろうでなくてはならない。これは、ニューラルネットワークには極めて難しい問題になる。ニューラルネットワークでは、“不確かなもの”をモデル化できないからだ」(同氏)
Urtasun氏は、「ニューラルネットワークは『そこにクルマがあることは、99%正しいだろう』と判断する。だが、ニューラルネットワークは“誤った判断”というのを許容できないので、『やっぱりクルマではなかった』と誤認識した場合、なぜ、判断や認識を誤ったのか、ということを理解させなくてはいけない」と続けた。
Urtasun氏は、「ディープラーニングが、人類の全ての問題を解決できるわけではない」というRussell氏の意見に同意している。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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