代表的な強誘電体材料(前編)〜圧電セラミックス系材料:福田昭のストレージ通信(62) 強誘電体メモリの再発見(6)(2/2 ページ)
今回から2回にわたり、代表的な強誘電体を説明する。本稿では、強誘電体メモリへの応用を見込んだ最も古い材料であるチタン酸バリウムをはじめ、最も重要な強誘電体材料であるジルコン酸チタン酸鉛(PZT)、そしてPZTの対抗馬として名乗りを上げたタンタル酸ビスマス酸ストロンチウム(SBT)、ビスマスフェライト(BFO)を解説しよう。
PZTの対抗馬として名乗りを上げたSBT
PZTの後に発見され、強誘電体メモリに応用された材料が、「タンタル酸ビスマス酸ストロンチウム(SBT:SrBi2Ta2O9)」である。SBTの結晶は、「層状ペロブスカイト(layered perovskite)構造」と呼ぶ、特殊なペロブスカイト構造をとる。具体的には、ビスマス酸化物の層が、2つのタンタル酸化物の層(ペロブスカイト構造)によって挟まれている。
SBTの強誘電体メモリ応用を想定したときにPZTに比べると有利な点は、動作電圧が低いことと、劣化が少ないこと、リーク電流が少ないことである。一方でPZTに比べると残留分極が小さい、結晶の作成温度が高い、という弱点があった。
SBTはPZTの限界を超えるメモリ材料という期待の下で、1990年代に盛んに研究された。しかし実際の製品応用例は、ごく一部にとどまっている。
タンタル酸ビスマス酸ストロンチウム(SBT:SrBi2Ta2O9)の概要。左はPZTとSBTの特性を比較した表、右はSBTの結晶構造である。出典:NaMLabおよびドレスデン工科大学(クリックで拡大)
PZTの5倍と大きな残留分極を実現したBFO
2000年代に入ると、残留分極がPZTよりも大きな強誘電体材料としてビスマスフェライト(BFO:BiFeO3)が登場する。2006年3月に東京工業大学と富士通研究所、富士通の共同研究グループが、ビスマスフェライトにマンガン(Mn)を添加した強誘電性薄膜で、PZTの5倍と大きな残留分極を確認したと発表したのだ。
富士通は2006年の発表当時、90nm製造技術によるメモリを2011年までに実用化すると表明したものの、残念ながら実用化には至っていない。
(後編に続く)
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