169MHz帯によるドローンの遠隔制御飛行に成功:マルチホップ中継制御も可能
情報通信研究機構(NICT)と産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは、169MHz帯を用いたドローンの遠隔制御飛行に成功した。中継用ドローンを用いたマルチホップ中継制御が可能なことも確認した。
飛行中に遠隔地から通信周波数の切り替えも可能
情報通信研究機構(NICT)と産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは2017年7月、電波が途切れにくい169MHz帯を用いたドローンの遠隔制御飛行に成功したと発表した。また、直接電波が届かない環境で、複数台のドローン間で無線通信を中継しながら、目的のドローンを遠隔操作できることも実証した。
研究グループは、920MHz帯と169MHz帯の間で、手動または自動で遠隔切り替えが可能なハイブリッド無線装置を開発した。これは、ドローンやロボットを制御するための920MHz帯無線装置に、169MHz帯の無線装置とそのアンテナを追加し、同一のケースに収納したものである。システムを評価するため実験試験局免許を取得し、地上制御局(操縦者)から169MHz帯の電波を使って、飛行するドローンを遠隔制御した。
開発に当たっては、「応答遅延時間を一定に保ちつつ、中継用ドローンなどを経由して、制御や状態の情報をマルチホップ中継する」という、これまで目指してきた機能はできるだけ変えずに、用いる周波数と送信出力のみを169MHz帯の規格に切り替えられるよう設計を変更した。
実験ではまず、操縦者が持つ端末とドローン側の間で920MHz帯を用いて通信を確立する。ドローンが離陸し、高度約30mまで上昇したところで、周波数を169MHz帯に切り替え、飛行状態への影響などを調べた。これによると、制御コマンドを送信してからドローンに届くまでの遅延時間は、920MHz帯で60ミリ秒であったが、169MHz帯だと2秒かかった。テレメトリーの伝送速度が920MHz帯のほぼ半分になることも分かった。それでも、安定した飛行を続けることに支障はなかったという。
920MHz帯から169MHz帯に周波数を切り替えるための時間は、約20秒であった。この時間は飛行自体の安全性に問題はないというが、今後は周波数切り替えに必要な時間をさらに短くできるよう検討していく。逆に、169MHz帯から920MHz帯に戻す時は、瞬時に切り替わることを確認した。
マルチホップ中継制御でも安定に飛行
169MHz帯を用いたドローンの遠隔制御飛行の実験では、中継用ドローンとして別のドローンを飛行させ、これを介して目的のドローンを運用するマルチホップ中継制御による飛行にも成功した。遅延時間とデータ伝送速度は、直接通信する場合とほとんど変わらず、安定した飛行ができることを確認した。
今回の実証実験は、距離が数十メートルという直接目視できる範囲で基本的な評価を行った。次の段階では、長距離での通信実験を重ね、169MHz帯を用いるメリットを評価しつつ、画像伝送の可能性などを探る。さらに、920MHz帯と169MHz帯の切り替え時間短縮や、受信する電波の強度に応じた周波数の自動切り替えなどについても、動作検証を行っていく予定である。
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