ミリ波技術をコネクターの世界に 米Keyssa:短距離通信市場を狙う(2/2 ページ)
米国のKeyssaは、ミリ波帯を利用してデバイス間を超高速に接続する技術を開発するメーカーだ。同社が注力するのは、「無線技術」ではなく、「コネクター技術」である。
WirelessHDの開発経験
Almgren氏は、Silicon Imageが2011年にSiBEAMを買収した当時(同氏はこの時もまだSilicon ImageのCEOを務めていた)、SiBEAMが推進していたWirelessHDを、苦労しながら取り組んだという経験を持つ。
WirelessHDは、HDビデオコンテンツを家電製品に無線伝送するために開発された独自技術だ。60GHzのミリ波(EHF:Extremely High Frequency)無線帯域において、7GHzの帯域幅で動作する。
Silicon Imageは、WirelessHDが、HDMIの無線バージョンとして広く普及することを期待していたが、いまだ実現できていない。
Almgren氏は2012年10月に、Silicon Imageを去り、2009年に設立された新興企業であるKeyssaのCEOに就任した。Keyssaは、ミリ波を使用して低消費電力かつ高速のデータ伝送を実現可能な、独自開発のソリッドステートコネクターをベースとする「Kiss Connectivity」を開発した企業だ。
Keyssaが狙う分野は?
ここで、「Keyssaは、WirelessHDやIEEE 802.11ad(WiGig)など、他の広帯域無線技術によって既に占有されている市場を追求していくのか」という疑問が生じる。
これに対してAlmgren氏は、「決してそうではない。唯一の共通点は、60GHz帯を使用するという点だけだ」と述べる。「Keyssaは、同じ帯域を使用するが、短距離通信向けに最適化している。このため当社は、より広帯域や低レイテンシ、アンテナの小型化、低消費電力化などを実現することができる。われわれの技術は、ポイント・ツー・ポイントのソリューションであって、他社のような共有ネットワークではない」(同氏)
他の無線技術は、長距離接続をターゲットとしているが、KeyssaはKiss Connectivityを、「1つのデバイスを別のデバイスに接触させるだけで、簡単にビデオやさまざまなファイルを共有することが可能な近接技術」と位置付けている。
Almgren氏は、「Keyssaの近接および広帯域アプローチは、他の無線技術との間の問題を回避することができる。Wi-FiやBluetoothに特有の問題点としては、ペアリングやパスワードの取り扱いが難しいことや、信号の損失やスヌーピングの可能性などがあるといった点が挙げられる」と説明する。
Keyssaによると、製品開発メーカーは現在、Kiss Connectivityを使用することにより、有線コネクターを設計する場合や、ユーザーが無線通信を使用する場合などのフラストレーションから、解放されるようになったという。
Keyssaは、コネクターに焦点を絞り込んだという点で、他の無線技術メーカーとは一線を画している。
技術メーカーや消費者たちは10年前当時、無線技術の優れた要素に魅了されていた。しかし、そのような興奮はもう覚めてしまっている。単なる無線技術では、消費者や機器メーカーから思うような反応を得ることはできないだろう。
Keyssaは、「Kiss Connectivityは、USB 3.0やDisplayPort、SATA、PCIe(PCI Express)など、あらゆる種類の既存の有線プロトコルをサポート可能だ」と説明している。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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