“FPGAaaS”は業界に浸透するのか?(前編):FPGAベンダーはどう考える?(2/2 ページ)
「FPGAaaS(FPGA-as-a-Service:サービスとしてのFPGA)」のコンセプトが登場している。FPGAaaSは、FPGA業界にどのような影響を与えるのだろうか。
クラウドサービスにおけるミスマッチ
Accelizeでマーケティング&パートナーシップ部門担当ディレクターを務めるSteáphane Monboisset氏は、EE Timesのインタビューに応じ、「現在提供されているクラウドサービスの内容と、ユーザーが本当に必要としているものとの間には、ミスマッチが存在する。クラウドサービスプロバイダーは、データセンターにおいてFPGAaaSを提供することができるが、ユーザーが本当に必要としているのはAaaSだ」と指摘する。
この現実を直視しなければならない。FPGAは、プログラミングを簡素化するための存在として明確に認識されているわけではない。ユーザー各社は、自社領域のアプリケーションについては理解していても、FPGAに関する専門知識を持っていない。このようなユーザー各社が、アクセラレーション関連の知識を持つディベロッパーを見つけたい場合には、誰に助けを求めればよいのだろうか。
ビジネスモデルの違いを認識する必要がある
さらに、ユーザーがクラウド上でFPGAアクセラレーションを実行する場合に必要なIP(Intellectual Property)は、1つや2つではなく、膨大な数に上る。Monboisset氏はこれについて、「特定の機能を実行するために不可欠な、デザイン向けのビルディングブロックである」と説明する。このようなIPの例としては、HEVCやHDR、AES、CNNなどが挙げられる。クラウドサービスプロバイダー各社は、このようなFPGAアクセラレーション向けIPを、クラウドのどの場所からどのように取得すればよいのだろうか。同氏は、IPの入手方法に関する問題の重要性を指摘する。
それだけではない。アクセラレーションのディベロッパーがFPGAプログラミングを実行すると前提すると、必要なIPをわずかな数しか見つけることができない可能性がある。ここでも同様に、全てのIPをどのように収集すればよいのかという問題が大きく浮上する。
Monboisset氏は、「簡単に言うと、IPビジネスモデルとクラウドビジネスモデルは、両立することが難しい。IPプロバイダーは、一度に高額な前払い取引が行われる、既存のモデルの方を好む。しかし、クラウドビジネスでは、使用回数や使用時間をベースとするモデルが採用されている」と説明する。
これまで約45万米ドルの前払いを受けていたIPプロバイダー各社に対して、1時間当たり1米ドルの支払いを受け入れさせることは、決して容易なことではない。
Accelizeは、Software-Defined(ソフトウェア定義)の開発プラットフォーム「Quick Play」や、使用回数ベースのセキュアなメカニズム「Quick Store」、拡張エコシステム「Quick Alliance」などを提供できるとして、自信を見せている。
米国の市場調査会社であるMoor Insights & StrategyでディープラーニングおよびHPC部門担当シニアアナリストを務めるKarl Freund氏は、「現在のところ、FPGAaaS市場規模は非常に小さく、せいぜい数百万米ドル程度ではないだろうか」と述べている。
また同氏は、「Microsoftは、データセンター向けアクセラレーションの中でも最大のFPGAユーザーであるが、まだFPGAaaSサービスとしての販売は開始していない。しかし、このようなサービスは、今後しばらくの間、ビデオやゲノミクス、マシンラーニングなどの後押しを受けることにより、1年間で約5倍の規模に成長するとみられる」と述べる。
米国の市場調査会社である451 Researchの共同創設者であり、インフラストラクチャー担当バイスプレジデントを務めるJohn Abbott氏も、既存のFPGAaaS市場規模が極めて小さいとする見解に同意している。
同氏は、「Amazonが2016年11月に発表した、F1インスタンスの開発者プレビュー(Developer Preview)は、VHDLやVerilogなどのツールでしかアクセスすることができない。これは、FPGAインフラストラクチャーを消費するための代替手法を探している、Xilinxの既存のFPGAの顧客企業を対象とした、早期の導入であるためだ」と述べている。
(後編へ続く)
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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