「産業ロボットはさらに進化」 ルンバ生みの親:AmazonやAlibabaがけん引役に
ロボット工学分野の先駆者で、掃除ロボット「Roomba(ルンバ)」の開発者でもあるRodney Brooks氏が、産業用ロボットの将来について語った。
AlibabaやAmazonもけん引役
「産業ロボットが変化を遂げようとしている」――。ロボット工学分野の先駆者であり、現在Rethink Roboticsのチェアマン兼CTO(最高技術責任)を務めているRodney Brooks氏は、米国カリフォルニア州サンノゼで2017年11月15〜16日に開催されたイベント「Collaborative Robots and Advanced Vision Conference」において基調講演に登壇し、こう切り出した。
同氏は「特に、現在ロボット工学のイノベーションの中心地になりつつある中国では、ロボットのさらなる統合化が進んで使い勝手も向上し、幅広く普及していくとみられる。AlibabaやAmazonなどが大規模な業務運営を進めていくことにより、次の段階の成長がけん引されていくだろう」と続けた。Brooks氏は、掃除ロボットRoomba(ルンバ)の生みの親である。
現在では、工場用ロボットに掛かるコスト全体の半分以上を、システムインテグレーターが占めている。システムインテグレーターは一般的に、センサーの設定やトレーニングを実施する他、専用プログラムの作成や、工場の現場で保存するための独自データの生成などを手掛けている。
Brooks氏は、「一方、未来の産業ロボットは、統合型センサーとコンピュータビジョンを搭載するようになる。オープンプラットフォーム上で複雑なコーディングを行わなくても、クラウドサービスにデータを送信できるようになるだろう。また、広く普及しているPLC(プログラマブルロジックコンピュータ)は将来的に、“アートプロジェクト”になるのではないか」と予測する。
また同氏は、「既存のビジネスモデルは、姿を消しつつある。業界では現在、導入のスピードが非常に遅いが、こうした状況が永遠に続くというわけではなさそうだ」と述べる。
音声命令に応答するようになる
同氏は、「ロボットは将来的に、制約のない状態で音声命令に応答するようになり、現在のように、管理者がスクリプト言語を介してやりとりする必要はなくなるだろう。過去5年間で、音声システムの機能性が著しく向上していることから、工場でも優れた音声機能を利用できるようになってきている」と述べている。
同氏は、数百社の産業用ロボットメーカーから集まった聴衆に向けて、「ロボット産業は20世紀に、完全に行き詰まってしまった。しかし、数々の小規模な新興企業が軌道に乗り始めたことで状況が動き出し、何十万人もの起業家たちが集まり始めたことによって、さらなる懸念が生じるようになった」と述べている。
現在、中国国内だけで、数百社のロボット工学関連の新興企業が存在する。これらの企業は、世界の製造拠点としての位置付けを維持したいと考える中国政府から、産業政策による後押しを受け、ますます勢いづいている。Brooks氏は、「工場の離職率は16〜30%と幅があるため、こうした人手不足に対処する上で、ロボットが重要な鍵になるとみられている」と述べる。
「中国の新興企業の多くは、6自由度の安価な準工業ロボットを手掛ける、ローエンドの製造メーカーだ。このため低価格化が進み、米国や欧州のメーカー各社にとっては、競争することが難しい状況にある。中国は、そのイノベーションレベルについて嘲笑を受けることはあっても、遅かれ早かれ力を拡大していくだろう」(同氏)
現時点で、Foxconn(鴻海精密工業)の工場の生産ラインで何百万台ものロボットを使用するという“約束”は果たされていない。ロボットのプログラミングに課題があるからだ。
AmazonのFBA(フルフィルメント by Amazon)のようなビジネスは、恐らく機械学習を利用した次世代ロボットの大きな推進力となるだろう。「Amazon Roboticsは米ボストンだけで700人の従業員を雇っているが、ロボットはピック・アンド・パック操作をすることができないため、クリスマスごとに雇用している」とBrooks氏は述べる。
「こうしたフルフィルメントサービスの拡大はロボットアームの開発を後押しし、工場の自動化に影響を及ぼすだろう」(Brook氏)
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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