産総研、熱電材料の性能を短時間で高精度に測定:新素材の探索も容易に
産業技術総合研究所(産総研)は、熱電材料の性能を示す「ゼーベック係数」を簡便に測定できる新たな手法を開発した。従来に比べて測定時間を10分の1に短縮し、測定精度は5倍に向上する。
自動車や工場の未利用熱を有効に活用する
産業技術総合研究所(産総研)物理計測標準研究部門応用電気標準研究グループの天谷康孝主任研究員と藤木弘之研究グループ長は2017年11月、熱電材料の性能を示す「ゼーベック係数」を簡便に測定できる新たな手法を開発したと発表した。従来に比べて測定時間を10分の1に短縮でき、測定精度は5倍に向上するという。
熱電材料は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換できることから、自動車や工場などから出る廃熱(未利用熱)を有効利用するための材料として注目されている。熱電材料は、ゼーベック係数が大きいほど性能が高い。このため、性能を改善するにはゼーベック係数を正確に測定する必要がある。しかし、従来の測定手法では測定に長い時間を要し、複雑な装置も必要となっていた。
産総研は今回、新たな測定手法を開発した。試料の両端に温度差を与えた状態で直流電流を印加し、試料の温度変化を測定する。その後に、交流電流に切り替えて印加し、温度変化と電圧を測定する手法である。交流電流を印加すると、電子の移動方向の変化に応じて熱の吸収と放出を繰り返す。このため、電子が熱を運ぶことによる温度変化は生じない。
ここで、試料に交流と直流を流した場合の温度変化の差と、試料両端の電圧の測定値を、熱解析より新たに導き出した式に代入することで、試料のゼーベック係数を得ることができるという。
従来は、測定する試料の両端に温度差を与え、直流電流を流してその温度変化を測定していた。この時、試料の長さや断面積に加え、試料の熱伝導率、放射率などの熱物性値が必要となる。この測定がこれまで課題となっていた。新たに開発した手法だと、熱物性の測定を行わずに、ゼーベック係数を算出することが可能となる。
産総研は開発した手法を用いて、代表的な熱電材料「ビスマス・テルル合金」のゼーベック係数について、試料両端の平均温度が50〜150℃の範囲で測定した。熱物性を測定していた時は、測定する時間が1温度当たり約1日必要だった。これに対して新手法を用いると約1時間で済むという。さらに測定精度も従来手法だと約10%だったものが、新手法では約2%に向上していることを確認した。
産総研は今後、より広範の温度でゼーベック係数を計測できる測定装置の開発や、自動計測を行うためのソフトウェア開発、これまで測定が難しかった薄膜材料の測定などに取り組む予定である。
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