「火を消す」有機電解液を開発――東大など:絶対に発火しない長寿命電池へ
東京大学と物質・材料研究機構(NIMS)らの研究グループは、消火機能を備えた高性能有機電解液を開発した。安全かつ高エネルギー密度を両立した新型二次電池の開発に弾みをつける。
EVやスマートグリッド向け新型二次電池の開発を加速
東京大学大学院工学系研究科の山田淳夫教授と山田裕貴助教らのグループは2017年11月、物質・材料研究機構(NIMS)の館山佳尚グループリーダー、袖山慶太郎主任研究員らとの共同研究により、消火機能を備えた高性能有機電解液を開発したと発表した。EV(電気自動車)やスマートグリッド用途に向け、安全かつ高エネルギー密度を両立した新型二次電池の開発に弾みをつける。
開発した電解液は、難燃性の有機溶媒と電解質塩のみで構成され、引火点を持たない。しかも、温度が200℃以上になった時に発生/拡散する蒸気も消火剤となる。このため、電池の発火リスクは極めて小さくなるという。同時に、安定した繰り返し充放電を実現することで、リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池を長期間利用することが可能となった。
消火機能を持つ有機電解液は、難燃性溶媒を添加するだけでは実現することができず、可燃性の炭酸エステル系溶媒を一切含まないことで初めて可能になったという。一方、負極を安定作動させるためには、炭酸エステル系溶媒が必須といわれてきた。ところが、新開発の有機電解液中では、充放電を1000回以上繰り返し行っても、リチウムイオン電池および、ナトリウムイオン電池用炭素負極はほとんど劣化しないことが分かった。
正極との適合性も良好であることが分かった。3.8Vの商用リチウムイオン電池や4.6V級リチウムイオン電池、3.2V級ナトリウムイオン電池の安定充放電にも成功し、電圧耐性が十分に高いことを確認した。
市場拡大が期待される二次電池は、エネルギー密度の増大と安全性確保の両立が、極めて重要な技術課題となっていた。今回の研究成果は、発火や爆発事故の原因とされてきた有機電解液が、安全対策の有効な手段/部材になることを示した。リスク要因が排除されたことで、二次電池の可能性がさらに広がる見通しとなった。
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