スマホと同じく“AD1C”へ向かうドローン ―― MAVIC Airの内部から見えること:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(22)(3/3 ページ)
今回は2018年1月に発売された中国DJIの最新ドローン「MAVIC Air」を分解し、分析していく。DJIの過去のドローンと比較すると、デジタル機能の1チップ化が進んできていることが分かる――。
DJI製ドローンの搭載チップ変遷
図4に、2016〜2018年に発売されたDJIの代表的なドローン4機種の内部主要チップの変遷を掲載した。実際にはこれ以外のチップも活用されているが基本となる5つのファンクションチップに絞って掲載した。5つの基本ファンクションチップとは、センサーの値を集め、空間認識を行う「ビジョンプロセッサ」(この機能はAI処理にも活用される)、システム管理を行う「メインプロセッサ」、撮影カメラの画像処理を行う「カメラプロセッサ」、「モーター制御チップ」、「通信チップ」である。
複数の機種で使われたチップもあるが、この表の中で最も古いPhantom4とMAVIC Airでは5チップとも入れ替わってしまっている。入れ替わっているだけでなく、「ビジョン+メイン+カメラ」という3プロセッサ構成であったものが、最新のMAVIC Airでは3チップの機能が統合され、1チップによる集中制御が成されている。
All Digital 1 Chipへ
過去、スマホなどで起こった1チップ化がそのままドローンの中で起こっているわけだ。デジタル機能は1チップ化され、通信とドライバなどが残るだけ。スマホのプロセッサは現在、「CPU+GPU+カメラ+ビデオ+LTE+Wi-Fi/Bluetooth」などデジタル機能を全て1チップ化した「All Digital 1 Chip=AD1C」がメインであり、2017年にはここに、AI用アクセラレータが加わっている。ドローンも同じくAD1Cが進んでいる。今後は、さらに高度な空間認識に加え、スマホ同様にAI用アクセラレータの強化も進むのだろう。
テカナリエではパッケージ表面だけで判断はせず実際にチップ開封を行いチップの内部を解析し、システム判断を行っている。結論から言えば、MAVIC Airは、デジタルを1チップ化し、モーター制御チップも従来とは全く異なるものを用いている。従来はスマートフォン向けプロセッサを手掛ける中国Leadcore Technology(联芯科技)のプロセッサを核にシステムを構築してきた。しかしMAVIC Airではクルマ向けにも売り込みをかける半導体メーカーのチップがメインで用いられている。ちなみにモーター用チップにも、これまたクルマをターゲットとした中国半導体メーカーの中国EV(電気自動車)向けシリコンが使われていた! モーター制御のような基幹部にも中国製チップが、しかもDJIのような高度なドローンで採用されていることは注目に値する。
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筆者Profile
清水洋治(しみず ひろはる)/技術コンサルタント
ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。
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