全光ネットワークで安全性と低遅延を検証:量子エニグマ暗号トランシーバー
玉川大学と産業技術総合研究所(産総研)は共同で、量子エニグマ暗号トランシーバーをダイナミック光パスネットワークに導入して実験を行い、フルHD映像などが低遅延で安全にデータ伝送できることを実証した。
フルHD映像のリアルタイム配信と、通信経路切り替えを実施
玉川大学量子情報科学研究所の二見史生教授と加藤研太郎教授、谷澤健准教授は2018年3月、産業技術総合研究所(産総研)データフォトニクスプロジェクトユニットと共同で、量子エニグマ暗号トランシーバーをダイナミック光パスネットワークに導入して実験を行い、フルHD映像などが低遅延で安全にデータ伝送できることを実証した。
玉川大学は、光ファイバー回線で極めて高い安全性が得られる量子エニグマ暗号に注目してきた。既存の光ファイバー通信回線と相性が良く、低遅延での暗号化や復号が行えるなどの特長を持つからだ。玉川大学は、ギガビットイーサネット(GbE)信号を暗号化して通信する量子エニグマ暗号トランシーバーを開発、作製している。
産総研は、爆発的に増大し続ける通信データ量を処理するため、ダイナミック光パスネットワークの研究に取り組んできた。電子ルーターを介さずに光スイッチで回線を切り替えるための技術である。2017年9月にはテストベッド(試験用ネットワーク環境)を東京都内に構築し、実運用を始めた。
両者は今回、量子エニグマ暗号トランシーバーを、ダイナミック光パスネットワークのテストベッドに導入して実証実験を行った。実験は産総研臨海副都心センター(江東区)内のロビーと会議室の2地点、東京大学(文京区)および、カイロス(千代田区)の合計4地点にあるユーザー基地局を、中央区に設置された光ノードに接続して行った。光ノードはシリコンフォトニクス・スイッチとMEMS光スイッチで構成されている。
これらのネットワーク環境において、「フルHD映像のリアルタイム配信」や、「容量がテラバイト級のビデオ映像を遠隔地でバックアップ」「通信障害を想定した光パス切り替え伝送による通信復旧」、などについて検証した。
この結果、遠隔地データバックアップについては、暗号を用いない通常のバックアップと比べて、その所要時間に大きな差はなかった。障害復旧に向けた光パス切り替え作業も、数秒程度で暗号通信を再開できることが分かった。
今回の研究成果は、米国カリフォルニアで開催される国際会議「OFC 2018」(2018年3月11〜15日)で発表する。
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