産総研、光パスネットワークの運用を都内で開始:光スイッチで低電力、低遅延
産業技術総合研究所(産総研)は、光スイッチを用いた「ダイナミック光パスネットワーク」技術を開発、そのテストベッド(試験用ネットワーク環境)を東京都内に構築し、実運用を始めた。
8K映像の非圧縮伝送による遠隔医療にも適応可能
産業技術総合研究所(産総研)データフォトニクスプロジェクトユニットは2017年9月、光スイッチを用いた「ダイナミック光パスネットワーク」技術を開発、そのテストベッド(試験用ネットワーク環境)を東京都内に構築し、実運用を始めたと発表した。
産総研は、ネットワークシステムで回線交換に光スイッチを用いる技術と、光パスを動的に設定する資源管理システムの技術を組み合わせた「ダイナミック光パスネットワーク」を提案。この実現に向けて、通信関連企業10社とプロジェクト「VICTORIES拠点」を2008年に設けた。
2016年には実用的な光スイッチの開発も行った。また、異なるメーカーのさまざまの通信機器をシステムに搭載できるよう、機能ごとに分割した「ブレード」と呼ぶモジュールを組み合わせて、容易に機能追加などができるディスアグリゲーション方式を提唱するなど、標準化を推進してきた。これらの研究成果を実用化し、普及させるために今回、テストヘッドを構築した。
今回開設したテストベッドはスター型の構成で、都内にある既設の未使用光ファイバーを活用した。光ノードには、4カ所のユーザー基地局が接続されている。基地局は2つを産総研臨海副都心センター(東京都江東区)に設置、残りは東京大学(東京都文京区)と、8K技術の医療推進を図るメディカル・イメージング・コンソーシアム(東京都千代田区、カイロス内)に置いた。これとは別に、2カ所の病院と接続する作業も行っているという。
光スイッチや光増幅器、中間制御装置で構成される光ノードは大手キャリア基地局(東京都中央区)に設置した。これらの装置は全て、1U標準ブレードに収納され、19インチ標準ラックにマウントされているという。
光ノードには、偏光無依存型8入力8出力(8×8)の光スイッチを採用した。消費電力は10Wで、同等仕様の電子ルーター(4kW)に比べると、その消費電力は400分の1になる。これが数十万ユーザーの大規模システムだと、消費電力は1000分の1に削減できるという。
開発した光スイッチを複数個用い3段カスケード接続すれば、ポート数が(32×32)の光スイッチを構成することができる。さらに、(32×32)光スイッチを複数個組み合わせると、(512×512)の光スイッチを実現することが可能で、ユーザー数が10万人規模のネットワークに対応することができる。さらに、波長単位で切り替えできる光スイッチを組み合わせると、数百万〜数千万ユーザーにも対応可能だという。
産総研は、テストベッドを用い、10Gビット/秒の信号を4日間連続して伝送した時の誤り率を測定した。実験では、伝送路に光減衰器を挿入して、信号強度を通常に比べて20dB減衰させ、しかも信号が光スイッチを4回通過する構成にするなど、厳しい条件で測定した。この結果、訂正限界を十分に下回る安定した特性が得られたという。
構築したテストベッドでは、8K映像機器を用いた非圧縮伝送によるテレセッションを行うこともできる。8K映像機器が本格的に普及していないため、今回の実験では安価な家庭用AV機器の4K映像を用いたが、システムの遅延時間は往復で約80ミリ秒となった。一般的に遅延時間が往復で200ミリ秒以内であれば、自然な会話を楽しむことができるという。
産総研は2017年度、大学や企業にモニターとしてテストベッドを利用してもらい、遠隔共存の効果的な実施形態について調査する。8K映像の非圧縮伝送による遠隔医療にも取り組む予定だ。2018年度以降は、一般ユーザーがテストベッドを有償で利用できる体制を整えるとともに、企業による事業化を進めていく。
なお、開発した技術は「CEATEC JAPAN 2017」(2017年10月3〜6日、千葉・幕張メッセ)の会場に展示される。
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