大容量と長距離を両立、標準外径光ファイバーの進化:159Tbpsで1045kmもの長距離伝送
情報通信研究機構(NICT)とフジクラは、標準外径マルチモード光ファイバーを新たに開発し、大容量長距離伝送実験に成功したと発表した。早期実用化が期待できる標準外径マルチモードファイバーで、大容量幹線への利用可能性を実証したという。
これまでの世界記録から約2倍の改善
情報通信研究機構(NICT)ネットワークシステム研究所とフジクラは、標準外径(0.125mm)のマルチモード光ファイバーを新たに開発し、159Tビット/秒(Tbps)、1045kmの大容量長距離伝送実験に成功したと発表した。大容量幹線の通信で、標準外径マルチモードファイバーの利用可能性を実証したという。
現在広く用いられている標準外径シングルコアシングルモード光ファイバーは100Tbpsが伝送容量の限界とされており、5G(第5世代移動通信)の実用化などで増大する通信トラフィックに対応するため、新型光ファイバーと大容量光伝送システムの実用化が求められている。
主に研究が進められている新型光ファイバーは、光ファイバーに複数コアを配置したマルチコアファイバーと、コア径を大きくして1つのコアで複数の伝搬モードに対応したマルチモードファイバーに分類することができる。
マルチコアファイバーは大容量かつ長距離の伝送実験に成功する一方、マルチモードファイバーはモードにより光信号の到着時間が異なり、大容量化と長距離化を両立する伝送は難しいと考えられていた。
今回、同機構などが開発した標準外径マルチモードファイバーはコアの屈折分布率を最適化し、モード間の伝搬速度差を抑制する構造を採用した。これにより、300を超える波長多重信号の伝送においても到着時間差を小さくすることに成功したという。
伝送実験に用いたシステムでは55km長の同ファイバーに対し、348波の異なる波長を持つレーザー光から16QAM変調で生成した3モード多重光を入射。周回スイッチを利用したループ伝送により最終的な伝送距離を1045kmとした。同ファイバーで伝送された3モード多重光は、各モード信号を光学的手法およびMIMO信号処理によって分離している。
同システムによる伝送誤りを測定した実験結果では、波長ごとのデータレートに若干のばらつきが発生したとするが安定したデータレートが得られ、348波長の合計で159Tbpsを実現した。伝送容量と距離の積に換算すると、166Pbps・kmとなりこれまでの世界記録から約2倍の数値になるという。
標準外径光ファイバーは、既存設備の流用が可能で早期実用化が期待できるとし、同機構が研究開発を進めているマルチコア技術と組み合わせることにより、超大容量伝送も可能になるとしている。
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