少ないデータで学習可能な物体検出技術を開発:医療活用で精度は2倍以上に向上
富士通研究所は、学習に用いるデータが少なくても、ディープラーニング(深層学習)による物体検出が可能なAI(人工知能)技術を開発した。
富士通研究所は2018年4月、学習に用いるデータが少なくても、ディープラーニング(深層学習)による物体検出が可能なAI(人工知能)技術を開発したと発表した。
医療分野などでは、診療画像から特定の被写体を切り出す物体検出に、ディープラーニングを用いることが多いという。ところが、精度の高い検出を行うためには、正しい画像を大量に用いてコンピュータに学習させる必要がある。しかし、専門知識を持つ医師でないと正しい画像を作成することはできず、大量に用意することはこれまで難しかった。
復元用ニューラルネットワークで推定位置の正しさを検証
富士通研究所は今回、物体検出ニューラルネットワークが出力した推定位置を、元画像に復元する技術を開発した。この技術を用いて、元の入力画像と復元した画像の違いを比較する。具体的には、復元用ニューラルネットワークから出力された画像と元画像を比較して、推定位置が一致しているかどうかで、推定データが正しいかどうかを検証する。
大量の画像について、推定と復元の作業を繰り返し行うことで正解データを増やしていく。これによって、物体位置を推定した正解データを大量に作成することができ、検出物体の精度を向上させることに成功した。
富士通研究所は、京都大学大学院医学研究科と共同研究を行っている。その1つにAIによる腎臓病の診断支援がある。今回の研究成果を用いて、腎生検画像からの糸球体の検出を行った。50枚の正解データ付き画像で学習した従来の物体検出用ニューラルネットワークと、これに加えて正解データのない450枚の画像を活用する今回の技術を用いて検証した。この結果、人間と同等の見逃し率10%以下という条件下で、新技術を用いると27%の精度を達成した。この数値は従来方式の2倍以上だという。
富士通研究所と京都大学大学院医学研究科は今後、糸球体の検出を応用した腎臓の定量的な評価方法の実現に向けて研究を続ける。富士通研究所は今回の研究成果を、製造ラインにおける異物の検出、異常箇所の発見などにも適用可能だとみている。
富士通は、「Zinraiプラットフォームサービス」を支える学習モデル構築技術として、今回の研究成果を2018年度中にも導入する予定である。
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