IoT/自動車向けMRAMに対する要求仕様とデータ書き換え特性:福田昭のストレージ通信(104) GFが語る埋め込みメモリと埋め込みMRAM(4)(2/2 ページ)
埋め込みフラッシュメモリの置き換えを想定したMRAM(eMRAM-F)と、埋め込みSRAMの置き換えを想定したMRAM(eMRAM-S)が、IoT(モノのインターネット)や自動車で使われる場合、どういった仕様が要求されるのか。データの書き換え特性を中心に解説する。
揮発性メモリと不揮発性メモリにおける書き換え特性の本質的な違い
データの書き換え特性に絞ってもう少し詳しく説明しよう。データを書き換える速度に対する要求はeMRAM-Sが高く、eMRAM-Fが低い。そしてデータの書き換えサイクル寿命(書き換え回数)に対する要求はeMRAM-Sが長く、eMRAM-Fが短い。つまり、書き換え特性に関しては、SRAMの置き換えを狙うeMRAM-Sに対する要求が、eMRAM-Fに比べると大幅に高い水準にある。
この違いは本来、揮発性メモリと不揮発性メモリではデータ書き換えの性能が本質的に異なることに由来する。揮発性メモリであるDRAMとSRAMはデータを高速に書き換えられるとともに、データの書き換えサイクル寿命は1015回以上と極めて長い。実用的には、書き換えサイクル寿命を意識しない(無限に書き換えられるとする)のが、DRAMとSRAMに対する考え方だ。
これに対して不揮発性メモリでは必ず、データの書き換えサイクル回数に制限が加わる。不揮発性、すなわち電源を切ってもデータを保持する特性は本来、データの書き換えとは相反する性質であるからだ。書き換えにくいという性質は、書き換え速度の低下と、書き換え回数の制限をもたらす。急速にデータを書き換えることは原理的に難しく、データの書き換えの繰り返しがメモリを劣化させる。
同じ埋め込みMRAMでも、フラッシュメモリの置き換えを想定したeMRAM-Fは、フラッシュメモリの書き換えが低速であるために、書き換え速度の要求も、アクセス時間で数百ナノ秒と比較的低い水準にとどまっている。そして埋め込みフラッシュメモリのデータ書き換えサイクル寿命は10万回と、あまり多くない。このため、書き換えサイクル寿命に関しても、eMRAM-Fに対する要求は100万回とそれほど厳しくない。そしてフラッシュメモリと同様に、10年間と長いデータ保持期間を保証する。
一方、揮発性メモリであるSRAMの置き換えを想定したeMRAM-Sは、書き換え特性に対する要求が極めて厳しい。書き込みアクセス時間は数十ナノ秒、書き換えサイクル寿命は1014回である。書き換え特性を優先するので、データ保持特性は犠牲にならざるを得ない。データを書き換え易いということは、データが反転しやすいということでもあるからだ。このため、eMRAM-Sは不揮発性メモリではあるものの、データ保持期間は1カ月程度と非常に短くなる。
各種の埋め込みメモリにおける書き換え速度と書き換え回数。縦軸は書き換えサイクル寿命(書き換えサイクル回数)、横軸は書き換えサイクル時間。揮発性メモリであるDRAMおよびSRAMと、不揮発性メモリであるフラッシュメモリでは、書き換え性能が大きく違う。MRAMは両者の特長を兼ね備えようとしている点に、技術的な難しさがある。出典:GLOBALFOUNDRIES(クリックで拡大)
(次回に続く)
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